52ヘルツのクジラたち (2024)

文字数 746文字

【熟成され悲劇のエンターテイメントに 】2024/3/6



いまや 「泣きの女王」になってしまった杉咲花さんが「市子(2023)」に引き続いて圧巻の泣きを披露してくれる。
小さな花さんが本シネマの中を堂々悠々と泳いでいた、クジラのように。

3年前原作に触れているが、細やかな内容はすっかり忘れ去っていた、
だから、読書では得られなかった高揚感を本シネマが満たしてくれたことに最初戸惑った、かなりの脚色が施されているに違いないと想像した。

原作のブックレビューの中に以下の感想が残っている;:
【悲劇である。ヒーロー、ヒロインもいなければ、壮大な舞台設定もなければ、サスペンスもミステリーもない。歴史絵巻もなければ歴史秘話もない、
もちろん手に汗握るアクションなどこれっぽちもない。あるのは、哀しみのなかに生きていこうとする人たち、かすかな希望に耳を澄ませ縋るように生きていく人たち。全編このような描写に心が挫けるかと思いそうだが、読了した時今までと違う満足感に浸った。 もしかしてこれは僕たちすべての哀しみなのではないかと、それに気づくことはひとつの進化だから。】

これ程に陰鬱な読後感想は滅多にないし、まさか本屋大賞小説として遭遇するとも予期しなかったので、実はシネマ鑑賞を躊躇っていた。
しかし、観終わってみて本シネマの底流にある明るさはいったい何だったのか。
この希望に満ちた強靭な未来志向が本シネマの骨格となっていることにようやく気付く。
その要因としては、親の虐待もトランスジェンダーも富裕階級の傲岸もすべて小説以後の3年間で世間に定着したからなのだろう。

悲劇の塊りだと思ったテーマが、しっかりと希望の光が灯る未来につながっていた。

悲劇のエンターテイメントに熟成されていた。
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