ブラック・スワン (2010)

文字数 1,231文字

【PERFECT BUT NOTHING】2011/5/15



心の奥深くで恐怖を感じたのは久々、いつのとき以来だろう?
サイコサスペンスとしての高い評価のほかにも取り上げたいポイントが多いが、
どうしても作品そのものの構成を詳らかにせざるを得ないわけになる。
以下、いわゆる【ネタバレ】をご容赦願いたい。

1.サイコサスペンス&ミステリー の高い完成度
もうこれは、アロノフスキー監督のセンスの良さを褒めちぎるしかない。
シネマが再現できる人生のリアリズムを「恐怖」で貫きとおした胆力も
ついでにヨイショしておこう。
傲慢なる野望に燃えながら精神面の壊れ弱さをも併せ持つ、プリマの成功と悲劇の
対比が強烈だった。
甘っちょろいハッピイエンド志向の観客に迎合しないシネマエリートに
これからも幸と栄光多かれと祈った。

2.ナタリー・ポートマン 、もう一人のシネマエリート
伝説の名優たちは「背中で演技をした」と語り伝えらる。
本シネマで、ナタリーはその文字の意味どおりの背中の演技をしてくれた。
その一方では執拗とも思えるフェイスショットに挑むかのような
あまたの表情表現パターンも見せてくれた。
なんともはや、表裏一体の演技とはこのことをいうのだろう。
この【背中】はサスペンスの一つのキーワードにもなっている。
【・・・あなたの背中に何かが迫る・・・】なんていわれたら誰だって肝を冷やす。
可憐で美しく、ストイックなプリマの背中に迫るものは果たして何か?
前半は心もち長めのシーンが多用されて、その違和感がストレスのように蓄積される。
そしてラストでの豹変(というか黒変)、短いカットで映像の官能を繋ぎ盛り上げていく。
極め付きの皮肉は、背中ではなく表側である【腹】にサスペンスが着地する驚愕だった。
ナタリー・ポートマンなくしてこのカタストロフィーは絶対に実現しなかっただろう。

3.完璧と絶望
完璧(PERFECT)と絶望(NOTHING)は人生のはらわた。
バレリーナに限らず、アスリートもアーティストもいや人間みな完璧を求め目指して生きる。
僕だって庶民としての完璧を目指す、それは夢や生きがいという言葉になっていることもある。
そんな完璧を目指すとき、皆ちょっとだけ自分の能力を超える努力をする、普通はそうする。
トップを狙う、本作のようにプリマへの渇望のようなケースでは完璧の条件が異なる。
能力では補えない「天賦」が要求されるという、
本シネマでもそんな約束事がチラリと言われる。
天賦の才がないと言われ続けらながら、完璧を求めるプリマに突きつけられる重圧。
妄想に身をゆだね現実から逃避していくその先に見えるのはNOTHING.
絶望のなかに自己の完璧性を見出すのは決して不思議ではない。
庶民はそこまで自分を追い詰める謂れがないものの、
「諦め」と言う擬似絶望に逃げ込むことになる。

完璧と絶望は人生のはらわたになっている。
本シネマを単なる恐怖シネマに留め置かなかった
PERFECT と NOTHINGにしばし想念した。

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