チェ 39歳 別れの手紙 (2008)

文字数 892文字

【チェが創ったシネマ】 2009/1/31



直近の直木賞作品、天童荒太さん「悼む人」の一節、
「・・・・・・世界が変わるかよ。幾つも革命が起きて、英雄も現れて
・・・・・・で、結局は元のままだろ」(文芸春秋)
に、不意を打たれた。
無意識で心が共鳴してしまったからだ。

《パート1》感想のなかで「革命を象徴するチェ・ゲバラ・・・」などと、
聞いた風な僕の飾り文をあざ笑うかのような指摘だったから。
革命現場の外にいて勝手なことをのたまうことはできるが、
現実には家族を、地位を、財産をなげうって
他国の革命に命をかけることなどできない。
「現状維持」、「触らぬ神に祟りなし」、「一番大切なのは自分」
これが本音だ。

僕の真情を見透かされたとはいえ、それでもパート2を観ないわけにはいかない。
あらかじめ判ってるとはいえ、
パート1がキューバ革命の栄光であるのに対して、
パート2は挫折と死であることを承知し、覚悟してスクリーンに挑む。

パート2は前編と全く異なるシネマ作法になっていた。
チェがキューバに、カストロに訣別し、
ボリビアのジャングルでゲリラとして銃殺されるまでを、
時間の流れに沿って淡々と、まるでドキュメンタリーのように追っていく。

あくまで真実を求める製作メンバーの意気込みを感じずにはいられない。
あえてドラマチックなテクニックを弄しない真意は奈辺にあるのか?
そう思っていないと緊張が切れてしまいそうなくらいの執拗さにいささか疲れる。
刻々と近づいてくるチェの死をクールにに見つめる根性がここでは必要だ。
そう、これはチェへの壮大な賛歌であり鎮魂歌なのだから。

銃殺シーンに至ってカメラが突然チェの目線になる。
伝説になっているチェ最後の言葉
「しっかり狙って撃てよ」
のインパクトを予想していた僕は軽く一蹴される。
カメラが倒れこみ、目線が揺らぎ、映像がぼやけ、魂が抜けていく。

このシネマを創ったのはチェ自身だと思い至った。

老婆心:
話は戻るが、チェは英雄で革命家だったが、
チェの死後、世界は決してもとのままなんかではない。
ところで、
引用した「悼む人」の文章は、それがテーマ、目的とするところでないことは明らか、
念のため。

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