小さいおうち (2013)

文字数 675文字

【昭和はどんどん遠くなっていく】 2014/1/26



昭和10年ごろ山の手の小高い丘の上に建てられた赤い屋根の小さいおうち。
当時の勤め人としても再一杯の頑張りで建てたマイホーム。
そこに奉公することになった女中タキが見た家族の秘密がシネマの大きなテーマになっている。
物語は昭和10年から終戦の20年までを漂う一方、
親戚の若者とのタキの自分史を巡る平成の現代にフラッシュバックする。

僕はジェームス・アイボリーの名作「日の名残り」で観た、
奉公人の忠誠と献身を思い起こす。
同時代の戦争の中、本作では庶民の生活を盗み見るような効果があった。
たとえば、
平成時代の若者からは厳しく非難されていたが、
当時の女中は奴隷などではなく立派な花嫁修業としての職業だ…とか
大東亜戦争は、マスコミの影響はあったとはいえ、一般国民もが熱望した一面もあった…とか
戦争終局までは、喧伝されているような厳しい統制はなかった…とか
である。
そう、女中タキが見るのは「日の名残り」で執事が盗み見たセレブの秘密ではなく
あくまでも庶民のたわいない醜聞である。
いつの時代にもある叶わぬ恋の顛末。
しかし、タキは自ら大きな欺瞞を犯し、そのことで一生悔い悩むことになる。
実に日本的な奉公人秘話であった。

親切なことにはタキの後悔を平成の若者が解きほぐしてくれる。
このシークエンスを蛇足ということなかれ。
今に生きる日本人にできることは、
戦争で本来の人生を全うできなかった人達を鎮魂することだけだから。

老婆心:
現在91歳の父から聞いている話とギャップがない。
自分を失わずに生きるのも戦争中の庶民の生き方の一つか?

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