ブラック・ダリア (2006)

文字数 937文字

【サスペンスタッチ健在なり】 2007/6/10



ジョッシュ・ハートネットの衣装モチーフが
《アンタッチャブル》のアンディ・ガルシアのそれとかなり似通っているのに気づいて、
あぁこの「ブラック・ダリア」は紛れもなくデ・パルマのシネマなんだってことに思い至る。
近年蓄積された経験からあふれ出る研ぎ澄まされてきた直感というか、
加齢による頑固な思い込みのようなものから判断すると、
すくなくともジェイムス・エルロイの世界を真摯に再現する気持ちが
デ・パルマには欠けていたことも想像できた。
その意図には大賛成だ。

《ブラック・ダリア》に限らず、エルロイのLAシリーズは、
深層の奥の裏の逆転を、感じ取るようなテーマが、
これまた複数並行しているのが特徴であり魅力であるから、
所詮、ハリウッドバージョンの際には別物になる運命の原作である。

《LAコンフィデンシャル》は、脱原作のサクセスケースだったが、
果たして今回はどうだったか?
評価の分かれ目は、シネマの限界まで、エルロイ風味をかもし出してながら、
シネマ作法はデ・パルマらしさにこだわる・・・・まさにこの点にある。

前述したように、エルロイの構成は膨大すぎてシネマ枠にまず収まらないが、
本シネマは1940年代のLAの街並みをはじめ、古き良き時代の懐かしい匂い、
繁栄の裏にうごめく人間の欲望、猟奇的な精神の病、
そして哀れなる死を生真面目に描くことに成功している。

随所に、デ・パルマのマーキング映像を見つけてにんまりしてしまう。
僕は、この点だけをもってして、デ・パルマは良くやったと思うが、
本来観客はわがままで欲張りだ。
主人公グループであるバッキー(ジョッシュ)とケイ(スカーレット)、リー(アーロン・エーカット)そしてマデリン(ヒラリー・スワンク)の裡なる心理、
肝心のブラック・ダリアの悲しさに一歩手が届かなかった不満も忘れられない。
その反面、ジョッシュとスカーレットの美男美女スターに焦点を絞り込むのに
躊躇した嫌いもある。
難しい調整だが、エルロイに挑戦した以上、
もっと大胆でスマートな簡素化があってもよかった。
シネマファン、デ・パルマ好きとしての勝手なお願いでもある。
とはいっても、
僕はデ・パルマのサスペンスタッチ健在なりを確認できただけでも満足した。

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