イニシェリン島の精霊 (2022)

文字数 859文字

【人生は死ぬまでの暇つぶしなのか?】 2023/1/31


タイトルにある精霊(BANSHEES)の意味を鑑賞後に調べてみたところ、「アイルランド民話に出てくる泣き叫ぶ姿をした女の妖精」‥とのことだけど、本シネマには妖精というよりは魔女に近い老婆が出てくるだけで泣き叫びはしないが、不吉な予言をして島民から嫌われていた。
この老婆は特に重要な役柄とも思えない、本作のエッセンスになっている宗教的かつ哲学的な展開を支えているのは二人の男性であり、予想できない壮烈な展開がイニシェリン島という寒々しい孤島で繰り広げられるのを、僕はあれよあれよと眺めているだけだった。

時代設定は今からちょうど100年前の1923年のアイルランド(日本では関東大震災の年だが)戦争の世紀20世紀真っ只中で、こちらもアイルランド内戦に明け暮れるすさんだ状況が島からもうかがい知る様子が描かれているがテーマは、もっと大きかった。
「人生とは死ぬまでの暇つぶしなのか?」
という疑問に駆られた初老の男が無駄な付き合いを一切絶つと、もう一方の暇を持て余している年下の男に告げる。
内戦中にもかかわらず祖国の行く末に関心もない二人の男の思考は、両者とも自己中心に徹して嚙み合うはずもない。
なかなか興味深い設定である。

「人は何のために生まれ必ず死ぬ運命なのに生きていくのか」という哲学の根源に迫る。
残念ながら、その答えを本シネマが指し示してくれることはない。
だがこの二人が到達した、「憎み合いながらも生きていく」という意識改革は馴れ合い毎日からの大きな飛躍になるだろう。
この境地に至るまで本シネマでは人の指が5本、人の命が一個、ロバの命が一個、賢明な女性が一人 消えていく。

自分の痕跡を何百年までも残しておきたいと願う気持ちは現代の人間も同じ、その方法がどんどん難しくなってきている。
百年後の今、イニシェリン島の佇まいはどんな様子なのだろうか?
犬、馬、ロバ、海鳥は今も元気にしているだろうか?
精霊は島の人たちを守ってくれたのだろうか?
   
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