Sweet Rain 死神の精度 (2007)

文字数 811文字

【原作シネマに悩みます】 2008/3/23



映画館で観るか、はたまたDVDまで待つか・・・真剣に悩んだ。

伊坂さんの本原作をそのまま映像化できないと確信していた。
この短編連作ファンタジーの襞に隠されたカタルシスは、読者が心の中で孵化するもの。
おそらくは絵にした途端、色褪せて硬直するものだと信じていたから。
そしてもうひとりの僕は、シネマ化その成否をいち早く見てみたいと渇望していた。
たかがシネマといわれてもこれは立派な悩み。

オープニングは、オリジナル路線を示唆するようなイントロダクションで俄然期待は高まった。
黒犬との交信もちょっと嬉しいアイデアだった。

ところがやっぱりの原作頼みに墓穴を掘ってしまった。
個々のエピソードが濃密な短編連作すべてを扱えなかったのは仕方ないとしても、
連作ダイジェスト風味を狙ったのは致命的間違いだろう。

失礼な表現だけど、
原作の重要なファクターを張り合わせたつじつまあわせ、稚拙な一夜漬け仕事に思えた。
長い年月の中で死神が、いや死が人間の悲喜こもごもをめぐり合わせる仕掛けが消滅した。
原作を離れシネマとしての質も中途半端の謗りを免れないレベルの低さだ。
クライマックスのヒロインのせりふは冗長で稚拙、あまりにも初歩的な過ちだった。

これしか脚色方法がなかった・・・のかもしれない。
原作にこだわるときっとこうなるだろう、
これが原作シネマの限界だといわれるのかもしれない。
僕がうすうす想像していた、恐れていたとおりの結果ではあった。

伊坂ストーリーのように緻密に計算され尽くした網の中で、
ストンと読者が感情を揺さぶられる技、
あるいは後からじわっと聞いてくるようなテクニカルパンチを映像化するのは難しい。
思い切った省略化、または拡大化で異なる世界を創造するしかない。

そのとおり、ことは簡単ではない、
原作を切り刻む作業である。
シネマクリエーターにその力が欠けている限り、
上質な原作には安易に手を出さないことだな。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み