フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊  

文字数 1,626文字

【凍りつく笑い】 2022/1/31



2年間のウイルスパンデミックの悪影響がシネマにもじわじわとボディブローのように出てきた。
総合芸術である(べき)シネマには総合というだけあって、尋常ならざる大人数の人知が注ぎ込まれている・・・ので、3密を避けるなんてことはミッションインポッシブルなのである。
誤解を恐れずに申し上げれば、高額ギャラのスターさんをそんなインポッシブルな窮地に置きたくないのはご本人はじめ利害関係者一同の暗黙の了解事項に違いない。

そうするとどうなる?
いろんな御託を並べ挙げたところで、シネマはエンターテイメント、文化や芸術は主流ではない(思っている、反論も多いところだが)、スーパースターを欠いたシネマ業界から娯楽大作の製作がとどこおるかな?と思っていたのが2年前、その予感が今現実になってきている。
シネコンで封切られる作品は小粒ばかり、スター作品や大群衆シーンが売りの作品はやってこない。TVドラマに毛が生えたようなザ・ムーヴィー群、過去の栄光よまた…のリメイク版ばかりがラインナップされる毎週の新作予告にうんざりしている一方で、本編クラスのシネマがいきなりネット公開されるというSFパニックに近いディストピア状態になっている。

そんな現実を認めたくなくて、僕はシネコンに赴く。
やたら長いオリジナルタイトルそのままの本シネマは消去法で観ることに決めた、とはいえ監督だけはチェックした、ウェス・アンダーソンと言えば「グランド・ブタペスト・ホテル」の印象が強烈だった、いい意味で。
ついでにキャストの一番初めも確認する、ベニチオ・デル・トロが目に入った、多才な俳優なので評価が振れるものの、「チェ」二部作が僕のお気に入りだったこともあって、キャスト評価はそこでクリアーされた。
シネマ冒頭で本作の説明がされる、「フレンチ・ディスパッチ 云々・・」の雑誌の最終号を映像で表現するという・・・説明があって然るべき。
その雑誌は政治・文化・時事をワールドワイドに広角的に取り上げる著名な雑誌だという(後知恵でニュー・ヨーカーがモデルとのこと)。平面の興奮を動的視覚に置き換えるナイス・トライだと直感した、「グランド・ブタペスト・ホテル」からもそんな熱量を感じたものだ。
雑誌のぺージ割(目次)のように、オムニバス風に記事(エピソード)が映像にされていく、このエピソードのつなぎは雑誌編集長とライターまたは編集部員とのディスカッションになっている。
エピソードが積み重なっていくうちに僕はとんでもない準備不足に気が付いてしまう、このキャスティングはいったいなんだ!
ビル・マーレ―(編集長)、フランシス・マクドーマンド(記者)、ジェフリー・ライト(記者)、エイドリアン・ブロディ(美術商)、ティルダ・スウィントン(記者)、ティモシー・シャラメ(学生)、ベニチオ・デル・トロ(囚人)、エドワード・ノートン(誘拐犯)・・・これだけでも豪華絢爛だが、
クリストフ・ヴァルツ、シアーシャ・ローナンには気づかなかったくらい(後から判明した)多すぎるスターたちだった。
もちろん、出演シーンも演技の深さも彼らにとっては物足りないものだろうが、前述のように僕はシネマ俳優に飢えていた。では、スターたちがチョイ顔見せ友情出演するおふざけシネマみたいなものかと言うとそんなことは決してない。
モノクロとカラーが、スクリーンサイズが意味ありげに変化する、俳優たちが動きを止める静止画面、アニメと実写のカップリングなどは今どきのSFXには決して頼らないぞと言うンノスタルジックな心意気を感じる。
辛辣な名言、悟りの言葉もあちこちに散りばめられている
・・・「猛毒こそ美味」。

雑誌が最終版になった理由は編集長の急死なのだが、ラストシーンで編集長の死亡記事を記者・スタッフ全員で書き上げようとすると、誰も編集長の実像を知らないことがわかる、
世界の真実に迫る高名な雑誌とのギャップに、笑いが凍り付いた。
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