魂萌え! (2006)

文字数 1,134文字

【極上ハードボイルド】 2007/1/27



シネマであるが故だけでシネマが好きな(トーホーシネマズの言葉を借ります)僕が、
大好きな桐野さん原作のシネマを観て、とても冷静な判断はできない
・・とお断りした上で、「このシネマは極上」だとお伝えします。

なるほど、映像化とはこうなのか!! 
シネマ製作の妙味とはここなのか!!と感じております。
まずこの原作をどう映像化するのか? 
原作は桐野夏生さんにしては珍しく内容が地味だが、
どういう工夫で魅力あるシネマに再生されるのか・・と気がかりでした。

なぜならば、普通の59歳の女性にふりかかる、
まぁ普通な苦難(夫が急死して発生するトラブルの数々を普通といってしまえばだが)と、
その表面のストーリーの伏流としての、残された妻の精神的な変身過程を、
ミステリー作家の誇りと、進化する女性を描いてきた意地をもって脈々と紡ぎ込んだ、
原作であるからして。

この難問に対して、阪本監督(脚本も)の映像表現は理論的で大胆だった。
ソフィア・ローレン主演の名作(ひまわり)につながる花のカット、
当然(ひまわり)のテーマである愛する人との訣別と再起のメッセージを
オリジナルとして新たに加えた展開は、観客の大きな救いになったはずだ。

また、主人公(風吹ジュン)が映写技師として再起する過程も、
これまたオリジナルとして、主人公の破壊的変身を饒舌に象徴している。
就職面接の帰り、電車ドアーに映る彼女の瞳、
「世の中・・・って」と、ふとこぼれた言葉に思わず僕は落涙してしまった。
これに続くシーンは一転して「猟奇的な彼女」を彷彿させるきわどい見せ場でもあるが、
ここは彼女の変身した証として重要で、かつ和ませてくれるいい場面だった。

もうひとつの難問、
桐野ファンなら当然期待しておかしくない、伏流としてのハードボイルドも、
僕は感知し得たし、満足できた。
これについては、ひとえに風吹ジュンの演技力に感謝したい。
普通のおばさんからハードボイルドレディーに切り替わっていく経過を
十二分楽しませてもらった。
そのアシストに三田佳子、加藤治子等の
贅沢で円熟した女優人の協演があったあったこともぜひ付け加えておきたい。

そう思えば、桐野ワールドお約束どおり、
男どもは見事にだらしなかったけど、残念ながら反論の余地なしだろう。
団塊の世代に属する一人の男性として、僕も思い当たる節ありだ。気をつけまっしょい。

「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きる資格が無い」、
本シネマの女性すべてにこの言葉を捧げたい。

《桐野ファンとして一言》:
主人公に強く生きる気持ちが芽生えるシーン、お米を研ぐシーンで「MILO」のロゴ
の入ったマグカップが目立ってたけど、これって探偵ミロが主人公に乗り移るっていう洒落だった・・・わけないか?

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