サバカン SABAKAN (2022)

文字数 747文字

【夏の日のファンタジー】 2022/8/19



子供の頃の思い出は切なくて懐かしくてちょっぴり後悔することもあったり、人生のどのステージで振り返ってみても心安らかになる、これは間違いのない真実だろう。

本シネマは書き悩んでいた小説家がふと子供のころのちっぽけな思い出を小説にする・・・という形式で進行する。
だから、子供(ここでは親友同士の二人の少年)が徹頭徹尾主人公であるが、子供の目線は賢く成長した大人の思惑にコントロールされている、つまりは都合の良いのファンタジーであり、当初想像した 名作「スタンバイミー(1986)」の二番煎じほどにも時代を揺るがすパワーは感じられず、人生に涙するカタルシスも訪れることはなかった。
主人公は同じ作家だが、相棒は弁護士/寿司職人、目指すのは死体/イルカ、立ちはだかるのは鉄橋/海、敵対するのは不良グループ/ヤンキー一派・・・と名作の構造をなぞる展開になっている。
僕はと言えば日本版スタンバイミーにいくぶん辟易し、とはいえ熱演する二人の子役を蔑ろにすることもできないまま過ごすうちに、本シネマの不思議な趣が気になり始めた、それは作り物の世界という違和感。

本来シネマは作り物であるといえばそれまでだが、本作では意識的に大人たちをカリカチュアし物語り背景に押し込めている。
大人演技者たち(草彅剛、尾野真千子、貫地谷しほり、竹原ピストル、岩松了など)の怪演も相まって、大人たちは主人公たちをサポートするためだけに存在するかのようだった。

そこに見えてきたのは、子供時代の郷愁をも乗り越えた「理想の夏の思い出」、夏の日のファンタジーとしか言いようがなかった。
成長した、二人が30数年ぶりに再開するシーンを見ることができないのも、それがファンタジーだからなのだろう。
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