ベイビー・ブローカー  BROKER (2022)

文字数 991文字

【品格とともに高みへ】 2022/6/24



ラストシークエンスにおける幻想のようなカットのモンタージュ、 「真実(2019)」で果たせなかった古き良き時代のフランスフィルム のようなエンディングは、冒頭から気になっていた微かではある違和感を一挙に払拭してくれる。
毒素やアイロニーをちりばめることなく家族の真の姿、人間の生を素直に映像に再現することを今シネマで達成してくれた、ニュー是枝ワールドだった。

そのラストシークエンスでシネマは多弁になる。
監督・脚本そして編集まで手掛けた是枝マジックが一気に咲き開いていた、
刑事降格された女性警官の幸せそうな笑顔、 ブローカーの相棒がいて、心根優しい若い夫婦がいて、かわいい男の子がいて、更生中の母親がいて、そして主人公ブローカーを 感じる、このシーンに至るための全編だった。

物語は、日本でも話題になっている「赤ちゃんボックス」にまつわる幼児窃盗から始まり、犯人たちと母親の奇妙なロードムーヴィに変換し、それを現行犯逮捕しようと旅を監視する女性刑事コンビが加味され、哀しい殺人事件も登場し、サスペンス展開になっていく。
そんなエピソード満載の中においても、赤ちゃんが子供が生き生きと描かれているのは、是枝ワールドのお約束でもあった。
女性刑事に確保された赤ちゃんの無垢なあどけなさ、ブローカーが再会する別れて暮らす我が子のけなげな愛情、唯一コメディラインを担当したサッカー少年、みんな是枝魔術に侵されていた、可愛くて傷つきやすく、寂しがり屋だった。
いつも感じているのは、こんな子供たちを見るためだけでも是枝作品に会いたいと。

本シネマは、カンヌ映画祭でソン・ガンホが主演男優賞を獲得したことで大きな番宣になっている。 ありきたりの表現ではあるが、賞は助演人の優れたアシストによって獲得されたものだった。 特に心優しき女性刑事を演じたペ・ドゥナの計算しつくされた演技に僕は魅了された、リンダリンダリンダから応援している。

近作に見られた、毒の強いメタファー、高質なアイロニーからの主張は今シネマにはない。
プザンの生活感、旅の途中の田園、ソウルの硬質、すべてのシーンに韓国への敬意を感じた。
そして前述のラスト、ストレートな人間賛歌に是枝フィルムの極致間近を予感する、
それはトム・クルーズ主演の「そして父になる」リメイク、期待している。
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