フェアウェル (2019) 

文字数 731文字

【オール東洋系によるグローバル倫理の提起】 2020/10/14



アメリカの華人であるルル・ワン監督ご自身が「パーソナルなシネマ」
と語っているように、
アメリカに移住した中国人一家の価値観と故国との慣習とのギャップ
がドキュメンタリーのように描かれる。
物語りの荒筋は、祖母の余命が短いことを知った孫娘の悩みと葛藤、
親戚たちとの暖かい交流を通して垣間見る人間の本質、
盛りだくさんのなかに、ふと遠い幼いころの日本の風景を思い出していた。

実際に中国本土に急遽戻るのは日本にいる長男一家、
アメリカにいる次男一家、長男家の花嫁は日本人というオール東洋人チームだった。
シネマの大きなテーマは
「死の宣告は個人の権利(西洋)なのか家族のものなのか(東洋)」
という東西の哲学的な対比であった。
さてさて、少し前の日本でも癌宣告は本人に伏せられるのが当たり前だったが、
いまや大きく変わってきていて延命措置の選択、臓器移植の認否まで生前から
決めることになった日本は本当に西洋化してきたのだろうか?

肝心なのは西洋の考え方が正しいかどうかではなく、
何が当事者人間の生き方に心地よいかどうか?という点にあることだとシネマは語る。

本シネマでは監督の実経験に基づいた東洋と西洋のぶつかり、
国籍の違いと精神の違いにある大きな隔たり、
そんな葛藤のなかから母国を信じる華人、批判する華人を際立たせているが、
今現在二国間分断の混乱のなかの人権問題をも浮かび上がらせている。

中国から移住しその血の国籍を持つ「華人」は数千万人と言われている。
彼らにとってアメリカは本当に自由で機会均等の国なのか?
彼らにとって中国は批判することの無いの懐かしい故郷なのか?

ルル・ワン監督のメッセージが鮮やかに僕の胸を打った。
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