事件 (1978)

文字数 610文字

【松竹やるなー】 1978/6/30


大岡昇平原作が日本推理作家協会賞をもらっているのなら、サスペンスジャンル作なのかもしれないが実態は骨太の法廷シネマだった。
ただでさえ日本人にとってはなじみの薄い法廷もの、それを下手な小細工なしの正攻法で迫ろうとするので、最初はどうしてもついていけない。
裁判長(佐分利信)の公平、検事(芦田伸介)の武骨、弁護士(丹波哲郎)の饒舌がツボに嵌まれば嵌まるほど、そこに虚構を禁じ得ない。
しかし法廷サスペンスらしく、証人が次から次に新しい事件の断片を振りまき始めると、がぜんシネマは生命を取り戻す。事件関係者たちが物語を作り始める。
なかでも松坂慶子の体当たり熱演に驚かされる、今までお姫様女優としてしか認識していなかったことを素直に謝る。
日本人役者にとって儲け役と言われている「男ヤクザ、女娼婦」を思い出した、もっとも彼女は娼婦役ではないが汚れ役であることに変わりはない。
松坂慶子を囲む俳優陣も豪華だった、松竹が全力を注いだ作品であることがひしひしと伝わってくる。
妹とその恋人に、今作でも上手すぎて浮いてしまうほどの大竹しのぶと、暗さが捨てがたい永島敏行、肩の力が抜けた渡瀬恒彦、ゲスト出演なの強烈な印象を残した森繁久彌…いったい何人日本アカデミーにノミネートされることだろう。
きめ細やかな原作と絢爛なキャストを束ね映像に再現した野村監督の力量が、やはり輝いていた。
(記:1978年6月30日)
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