糸 (2020)

文字数 759文字

【ピリ辛押さえてマイルドなお味】 2020/8/28



瀬々監督のメッセージが何にも届かなったのは
色んな人たちへの気配りの結果なのだろうと忖度している。
あの毒素を含んだ、背筋がゾクッとする告発を期待してはいけない、
みんなが幸せになるシネマが今作「糸」だった。
ベテラン林・脚本を持ってしてもすべてが丸く収まる展開を崩して
変化球を投げる余地もなかったのだろう。
皮肉を込めて、製作スタッフのご苦労が偲ばれて仕方がなかった。

では、その元凶は何か?
中島みゆきさんの「糸」からインスピレーションされて作られたシネマである
ということに尽きる。
「糸」が何度も何度も繰り返し流れる、
エンディングでは菅田ボーカルでとどめを刺す念の入れようだったし、
その他の中島さん楽曲も執拗に複数回物語の途中で登場してきた。

心に残るたった一曲の唄からシネマが生き生きと動き出すことは、
シネマファンにとって望外の喜びである、例えば山田洋次監督の
「幸福の黄色いハンカチ」、僕は今でもあのラストシーンで涙する。
今シネマも、おそらくは「糸」の歌詞から壮大な愛の奇跡を妄想したに違いない。

美瑛、函館を代表する北海道の自然と人間の生き様、
シンガポールを例に取った国際化する日本人の真実、
地べたをはいずっても生きていくしかない大多数庶民の逞しさ、
エピソードは目まぐるしく変わり物語は「平成」を網羅していく。
しかしながら、それらは時空をつまみ食いするに過ぎない。

せっかくの菅田将暉・小松菜奈コンビがミスキャストに思えるくらい
奇跡の愛の当事者が平坦な人物としてストーリ展開に埋もれてしまう。

ゴージャスなキャスティングはいまどきのTVシネマ製作のお約束だが、
そろそろ本質に目を向けよう。
TVがシネマを刺激して進化して、
思いもかけない融合を実現するのは、いつになるのだろうか。
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