こんにちは、母さん (2023)

文字数 723文字

【令和版 男はつらいよ、母さんもね】 2023/9/1



91歳山田監督が78歳吉永小百合さんと組む「母シリーズ」三部作とのことだが、どう見ても母ものシリーズというよりは、小百合シーリーズの意味合いのほうが強い。
これまでの二作に反戦思想が物語の基盤となっていたのに対して、本作ではある種諦念のような脱力感を感じ、そこに観たのは令和の日本人模様だった。

小百合さんは隅田川沿いの下町にある足袋屋の女将さん、どうやら一人息子(大泉洋さん)が大手企業に勤めていることが自慢の、至極普通の母さんでお祖母ちゃんを美しく演じる、いつものように。
この足袋屋があの寅さんの実家をシュンと小さくしたような佇まいで、近所の人たちがワイワイと集まってくる居心地のよさそうな趣、無論今どきあり得ないような昭和の匂いがする、しかしすぐに今は令和の時代だと思い知らされることになる。

先に亡くなった足袋職人の夫を偲びながらボランティア仲間の牧師(寺尾聡)に恋する母さん。
人事部長の職務に押しつぶされそうになる一方、妻から離婚され、娘との会話もない一人息子。
ホームレスを支援するボランティア活動の非力を痛感するお母さん。
母さんとひとり息子が令和の時代を生き抜く姿が、本シネマのすべてだった、特別な事件もカタルシスもなかった。
そしてそれは、令和の庶民の実像を端的に表すものでもあった。

企業論理を振りかざすことをやめた息子、そんな息子ともう一度真剣に向き合うと決心する母さん。
男はつらいよ・・・と、斜めに構える寅さんの姿が息子と重なって見え、さくらの健気な優しさが母さんに移っていた。
ただただ、それだけのシネマだった、これが日本の現状だという強烈なメッセージを残して。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み