ほかげ (2023)

文字数 734文字

【田中泯さんを継ぐ男】 2023/12/27
 



静かに訴えかけてくるのは、「反戦」、「戦争の愚かしさ」。

シネマ構成はシンプル過ぎるくらい、まるで舞台1~3幕構成のようだった。
第一幕は夫と子供を失った女(趣里さん)の自暴自棄な生活、その中に飛び込んできた戦争孤児との心の交流・・・と説明すると、なにやら希望に満ちた終戦直後の一時の哀しい、しかし救いの見えるエピソードのようにも思われるが、シネマは徹底して暗い暗い闇の中で進行していくなか、そこにあるたった一つの火影(ほかげ)が哀しさを増していた。
生きる望みを失った女と子供が力と愛情を合わせて前を向こうとするまでが、第一幕。

勝手に決めた第二幕はというと、子供が女から冷たく突き放され、そのあと巡り合うのが右手を負傷した復員軍人(森山未來さん)。 東京の焼け野原には身体の一部を失った元兵士たち、そして心を無くした若者たちが大勢いた、何をするでもなく、する意思もなく。
子供が出逢った男には死んでいった戦友に報いる使命が残されていた・・・それは・・・。

男と別れ女のもとに戻る子供、難病に罹った女が子供に託す言葉、「しっかり働いて、ご飯を食べて、生きなさい」。 子供一人でそんなことができない戦争の邪を象徴した第三幕、終幕だった。

一貫して戦争の悪を庶民の目線で再現した本シネマは、たんなる78年前の歴史上のエピソードではない。 東ヨーロッパで、中東で今起きている現実でもある。

趣里さんと森山さんは物語りで相まみえることはないが、各々の強烈な個性で「哀しみ」をぼくに投げかけてくれた。
特に森山さんの右手を封印した中での優雅な身体使い、舞踊に昇華していた。
田中泯さんを継ぐ貴重な資質だ、これからも期待している。
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