せかいのおきく (2023)

文字数 797文字

【観る総合ビタミン剤】 2023/5/2


またまた 坂本順二監督の貴重な、そしておかしなシネマに出逢って幸せだった。
オリジナルストーリーならではの勝手気ままなユートピアに浸りきることができて幸せだった。

黒木華さんのくすぐったくなるような可憐な元武家娘に言葉も出ない。
池松壮亮、筧一郎ご両人のバディコンビ、汚れ役を超える匂い漂う先に輝く友情に僕は時代を超えた普遍の優しさに包まれる。

そう、キーワードは「優しさ」、今どき 優しすぎて退屈だったというほど僕たちは優しさに恵まれていないはずだ。
本作のコンセプトだというSDGs、そんな舶来思想を振りかざすことはない、江戸時代の実際の生活を再現しただけなのだから。

糞尿業で生きていく青年二人、「みんなクソするじゃないか」という、そのとおり職業に貴賤はない。
倫理に従って侍をやめた父娘、「間違いはたださなければいけない」という、そのとおり周りに忖度ばかりするものではない。
娘の求愛に困惑する若者、「身分が違いすぎます、読み書きもできないし」という、そのとおり愛に身分や学歴は関係ない。
喋ることができなくなった娘に説教する坊主、「一人一人に役割というものがあります」という、そのとおり多様性はみんなで守るものだ。

本シネマにはこのような現代人が迷っている諸々に優しい導きをしてくれる。
映画作法においても、ほっこりと優しい。
モノクロ画面にしたのは、糞尿のシーンがあまりにも多いからだろう、できればカラーで見ない方がいい(そのお試しも一度ある)。
章立てタイトルがわかりやすくオシャレ、このタイトルを追っていくとシネマタイトルである「せかいのおきく」に到達するという優しさだった。

観終わって、今までカサカサ乾燥していた肌がしっとりしたように感じたものだ。
まるで総合ビタミン剤を飲んでしばらくたった時の感覚に近い、本シネマは観るビタミンだった。
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