ブリキの太鼓 (1979)

文字数 907文字

【3歳で成長を止めてみては?】 1980/8/20



すばらしい作品だと思う。
その功績は第一に、オスカル役のダーヴィット・ベネント少年の演技によるものだ。
子役が、シネマで並み居る大人俳優をくってしまうことは、そんなに珍しくはないが、
その武器は子供らしさであり、かわいらしさだ。
一般的に大人と称する人たちは子供には弱い。
ところが、本作品では「体は3歳、精神は20歳」の異様なキャラクターが設定されている。
観る側の正直な気持ちとしては、そんな奇形人間に特にお目にかかりたいわけではないから、
ずばりのキャストでは困惑するだろうし、
シネマ上のお約束事としての演技でも不自然さが否めない・・・難しい。
この振幅の調整は当然監督の力量の範囲だろうが、
やはりベネント少年の特異性起用が成功の大きな理由だろう。

彼の名演を通して描かれるダンツヒの悲劇、そこに関わる人間たちの赤裸々な生活
(これをして月並みな表現に恐縮するが、人間の深遠に至って且つ永遠に
 究明されるべき問題とは、全て人間の赤裸々加減に関連してくると信じている)
は、おおいなるショックであった。
歴史とは普通の人間が営々と構築してきたものであるが、歴史に生きた人間自身は、
その歴史の本質を決して知ることはできない・・・今さらながらのダメ押しだった。

3歳で肉体を停止させたオスカルは、
その意味で歴史の審判者としての立場と才能を持たされた神の立場にも近い。
3歳のままでいた17年間こそ、ダンツヒ、ヨーロッパ、
そして世界の歴史に、悪魔たちが舞い降り立っていた時代だった。

神の立場で不幸な殺戮を見つめてきたオスカルこそ、
今に生きる僕たちがもう一度取り戻さなければいけない視点なのかも知れない。
オスカルを取りまく人間模様はシネマとして面白く、感動もするが、
オスカルの宇宙的発想・・・
人間の卑小さが明るみに出されるような歴史観が
今のヨーロッパに求められているのだろうと良く理解できる。
惨劇をし尽くしても繰り返される戦争の愚かさを自覚できない人間に、
成長など望めないものなのか?

人間は成長する必要などない・・・とすれば、
みんな3歳で成長を止めてみてはどうだろう?
面白いものが見えてきそうだ。
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