エンテベ空港の7日間  (2018)

文字数 806文字

【多面的考察を評価する】 2019/10/8



サンダー・ボルト(エンテベ空港人質奪還)作戦は今作で4回目のシネマ化である。
過去三回は事件の直後製作されており、いわゆるユダヤ系ハリウッドもしくはイスラエルによる、ヒーロー物語だった記憶がある。
そして43年がたった今のリメイク、いったい何が起きたのだろうか。

本シネマには主役はいない、
間違ってもイスラエル特殊部隊ネタニヤフ中佐が中心ではない。

シネマの狂言回し役は西ドイツの革命家2名、
演じるロザムンド・パイクとダニエル・ブリュールはステレオタイプのテロリスト像を破り捨ててくれた。革命に命を懸ける決意に至らないまま、パレスチナ民族解放戦線(PFLP)に協力し、追い詰められ己の甘さに悩む。
そのPFLPも、イスラエル建国の原因となったのはナチズムによるユダヤ人排斥だと、現在のドイツ人をも憎む屈折した思いがあった。
テロリストの場所を提供したウガンダ・アミン大統領はただただ自分の評判のためだけに中東の複雑な政治を混乱させる。

ラビン首相、ペレス国防相と特殊部隊員らの奇襲作戦実行側の苦悩、
妥協と闘いの選択に悩みぬく姿。
意外とその内面に入り込まなかったのが囚われの人質たち、
それでも尼僧の人道的行動、毅然とした職業意識のエアー・フランス機クルーは
重要なエピソードとしてとどめ置かれていた。

と、説明していくとドキュメンタリータッチの創意工夫のない野暮なシネマに思われるが、
シネマオープニングからエンディングまで一貫して奏でられ舞われるのがコンテンポラリーダンス、物語の合間にカットインしてくる。
ダンスチームのリーダーが、イスラエル軍特殊部隊員の恋人であり、そこに芸術と暴力の対比をメタファーして、殺伐とした本作の潤いになっている。

シネマのメッセージは最後のテキストにて明確だった。
43年前から現在までパレスチナとイスラエルの平和への試みは何ら進展していない…ということだった。
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