アルキメデスの大戦 (2019)

文字数 843文字

【必敗の戦いに挑んだ若き天才】 2019/7/26



主人公の数学の天才を演じる菅田将暉さん、
今更ながらだが群を抜いてお上手だった。
並み居るベテラン(ご老体)役者を圧倒していて、
それはそれで日本シネマ界の明るい将来を垣間見た思いだった。

しかし本作の真の主人公は「戦艦大和」、
毎年 敗戦記念日近くの今頃に公開される太平洋戦争記念シネマでも常連の
世界最大の戦艦であること、その時代錯誤的出自、悲惨な最期の出撃などなど 
戦争の無意味と愚劣を語るには欠かせない記念物である。

物語の80%は若き天才数学者が当時の最高権力であった軍部にたてつく、それも軍部の要請で。
つまるところ軍部内の権力争いの渦に巻き込まれる民間人 という天才ファンタジーが主流になっている。

海軍大臣、軍令部、そして実戦部隊でのトップ権力者たちの醜い争いの中で、
「数学」だけをもって正義を貫こうと苦悩する主人公。
巨大戦艦を作ってはいけない…という信念、
数学は世界に通じる‥‥という事実、
彼の闘いはシネマならではのカタルシスを醸成する。

しかしながら、物語はこれで終わらなかった。
哀しくも鋭い歴史観がエンディングを飾る。
明治以降 先進国・強国を目指してすべてを犠牲にしてきた国民、
そんな国民の致命的な従順さ、
お国のために命を預ける無邪気、
国民の財産を収奪する財界と政治家、
国力・物力を知らない庶民の無知、
すべては 必敗の戦争に向かうためのものだった。

「大和」に託された主人公の願い、一抹の希望、
はたして、300万人の犠牲者に値する値打ちがあったのか?
エンディングシーンの主人公の涙に、僕はかけてあげる言葉はなかった。

老婆心:
毎日のように進化するVFXが今作でも美しく活用されている、
戦争アクションには欠かせないものになった。
とはいえ、戦争アクションは冒頭部分だけ、
そっち方面を期待してはいけないが、それ以上の充実した内容だった。

想定外の危機を想定する技術力と信念、
戦闘においても人命を第一とする人間主義
・・・シネマ製作者の矜持が見えた。
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