月 (2023)

文字数 683文字

【バトンは手渡された】 2023/10/13


問題作・・という触れ込みでプロモーションも盛んだが、シネマは問題作だからといって優れているものでもない。
顧客がいる以上シネマの満足度がいかに高いかという点が優先すると思っている。辺見さんの原作は未読だが、かの有名な障害者殺人事件を忘れるはずもない。

あくまでも個人の感想(いつもそうなので恐縮だが)ではあるが、顧客満足度は高かった。
問題作という看板はしっとりした夫婦愛で縁取られ、そうはいっても現在の庶民が直面している多様な不安がシネマを通して語られる。
不器用で頼りない夫婦を宮沢りえさん、オダギリジョーさんがきっちりと着地までピシりと決めてくれる。 奥様は書けなくなった小説家、旦那さんはオタクアニメーター、奥様が問題の施設でアルバイトを始めるところから物語が動き出す。

施設に働く若者、青年(礒村さん)は優性主義ネオコン、女性(二階堂さん)は小説取材が目的で働く、この二人を含め心の中の暗い月を抉り出していくという仕掛けになっていた。
隠蔽社会・建前世間に追い込まれる障害者を自分たちの問題と考えられない想像力欠如・・・の若者たち。
我が魂の叫びを小説に書く勇気がない哀しみ、失くした我が子に人生を囚われる・・・夫婦。

施設の実態が映像で再現されていく、障害者一人一人の顔がアップになる、言葉が動作が曝け出される。 そして暴力、虐待・・・虚構の中にしか真実は見えないのだった。
シネマは事件当日の混乱のなか終わり、夫婦再生の旅が始まる。

障害者介護問題を真正面から切り取ることはなかった、
だがバトンは手渡された。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み