太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男- (2011)

文字数 1,010文字

【大いなる 「ちぐはぐ」】 2011/2/12



フォックス(狐)のように賢かったとアメリカ軍が賞賛した日本人大尉の美談だった。
注意しなければいけないのは、殺しあった敵軍の褒言葉としてのフォックスだったということだ。壮絶な戦いに生き残ったものが相手を認めるのは極限状態にいた兵士の錯覚に違いない。

そのことをフォックス本人(大場大尉)がラストシーンできっちりと説明する;
47名の兵を統率し、200名の民間人の命を救ったとアメリカ軍大尉にお為ごかしされて、
『・・・それ以上の人数を殺してきた、この島で褒められることは何一つしていない・・・』
とフォックスは答える。

実は僕が《美談》だと思ったのは彼のこの言葉、偽りない人間の真情に触れたからだ。
この戦争が、
というより全ての戦争が不幸にもちぐはぐな人間関係の積み重ねの結果、
国家が執り行う最悪の理不尽であるとするならば、
本シネマはサイパン戦の隠れたヒーロー物語の姿を借りた「ちぐはぐ」を描いた美談だった。

「ちぐはぐ」らしき現象列挙には暇がない:
■総攻撃を前に自殺する日本軍司令官
■サイパン占領の功績があるアメリカ軍司令官なのに、わずか47名の日本軍ゲリラのおかげで更迭される
■日本語が話せて日本文化に造詣が深いと自他共に認めるルイス大尉は日本軍を過大評価し結果として文字通り良き人を褒め殺す
■「生きて虜囚の辱めを受けず」教育のおかげで無意味に消えてしまった兵士、民間人あまたの人命
■降伏を口にすることすら忌まわしい裏切り行為だと断じる集団ヒステリー
■天皇に絶対服従のはずなのに、かの終戦宣言を信じず、末端への命令を待つ官僚精神

このように戦争は勇ましくも高潔でもなく「ちぐはぐ」な殺し合い、無駄な破壊にしか過ぎない。日本人が精神の復興を果たすのにどれほどの年月がかかるものか?
今の日本が注意し、落ちいってはいけないのがこれらの「ちぐはぐ」であり、
日本が貢献すべきは世界の「ちぐはぐ」をひとつひとつ解して正しい流れにすることなんだ本シネマは教えてくれた。

老婆心:
アメリカクルーの撮影と日本のそれとがはっきりと異なって見えた。
将兵たちが帝国陸海軍らしく見えたのも、USマリーンらしかったのもそのおかげだった。
どちらも自国の文化をにおわせ漂わせていた。
この映像の差異が一番大きな「ちぐはぐ」だった、意図したかどうか知らないが
この「ちぐはぐ」こそが思いがけず公平なシネマになった要因だと思った。
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