グローリー/明日への行進 (2014)

文字数 899文字

【護憲、いろいろ考えさせられたシネマ】 2015/6/23



とても真摯に製作されたシネマです。
エヴァ・デュヴァネイ監督はこの作品でアカデミー作品賞に
初めてノミネートされたアフリカ系女性だそうです。
1965年3月に起きた悲劇「血の日曜日事件」を再現していますが、
当然のことですが、その視点は黒人からのものです。
物語の流れとしてマルティン・ルーサー・キング・ジュニアが主役であり、
彼の名演説も見どころになっていますが、
本当の主役は黒人たちの静かでかつ燃えるような抗議精神でした。

1965年時点、アラバマ州セルマではいまだに人種隔離政策が徹底され、
黒人の選挙権が1%しかない異常事態が続いていたことなど
日本人にとって何ら関係のないことでした。
公民権法が意図したように機能しないのは南北戦争から続いていた
白人優越思想の煽動によるものであることも、
これまた日本人にどうでもよいことでした。

アメリカ憲法によって認められた人権、平等の精神は、
しかしながら、ジョージ・ウォレス知事に代表される政治家連中の運用によって無視、
捨て置かれていたことは、
日本人も関係ないとは言っていられないでしょう。

シネマでは連邦政府大統領である、リンドン・ジョンソンですら
憲法を守ることより安全保障が大切だという言い回しをしています。
国民の権利を守るための憲法が、実際には想定利害対立者である
国家によって蔑ろにされることへの抗議、
そのリーダーの物語…と考えると、本シネマへの興味が尽きることはありません。

今現在、アメリカでは人種差別が再び深刻化し、過激なテロが起きています。
この時点で今一度アメリカにおける黒人の歴史と実態を考えようとする、
本シネマ制作者の気持ちが伝わってきました。
翻って今日本では、国民の権利と安全保障をめぐる憲法論議が
危ういほどの茶番の中で進められています。
国家の存在理由、憲法の目的が忘れられたままに・・・。
老婆心:
「グローリー ・・・・・」という邦題は
1989年の「グローリー」に敬意を払っているのでしょう。
ずばり「セルマ 血の日曜日事件」で良いのでは、
そのくらいエンターテイメント色のない政治的なシネマですから。

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