スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 (2007)

文字数 724文字

【急所つぼ押し】 2008/6/28



ここは、クールに且つ真面目に感想を述べなければいけない。
それには、ちゃんと理由があるからして。
シネマ大好きの僕だが、ミュージカルジャンルはどうしても体質に合わない。
幾たびか、名作の誉れ高いミュージカルシネマを鑑賞したが、
そのたびに自らの感情の冷え冷えした反応に苛まれた。
それでも「喉元過ぎれば何とやら・・・」の例えどおり、
年に一度くらいは、ミュージカルシネマに挑んでいるこのごろである。
そこには、深く傷ついた劣等感を何とか救いたいという小さな希望が哀れに垣間見える。
こんな理由があるのだから、
せっかくの本シネマには素直になってみる。

なんといっても、
ジョニー・デップとティム・バートンへの期待が、ミュージカル劣等感を抑えたこと、
これが本シネマの最大にして選択地の少ない賞賛につながる。
こんな気持ちの悪いシネマ、この二人だから許される。
この気持ちの悪さは、ふと油断すると変幻自在に快楽にすら思えてくる、危ない危ない。

冷静に立ち戻ると、
胃の中は苦汁にあふれ吐き気に眩暈がするほどのグロな映像を、
眼を眇め、細めながら腹立たしく感じている。
この我が身に発生する矛盾の振幅に、心は穏やかではなかった。

肝心のミュージカル仕立てだが、
せりふから歌唱に化けるプロセスには相変わらずついていけない、白ける感じだ。
ところがである、
歌が綺麗、可憐、美しい。
この清純ともいえる音楽に、大胆にぶちまけられる血糊の繰り返し。
ミュージカルである理由がそこにある。
僕の人生も(すくなくともここは素直になれば)、
美しい建前と残酷なる現実の混沌のようなもの。
自覚のない急所をつぼ押しされてようだった。

ティム・バートン恐るべし、ジョニー・デップ芸達者。



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