ヒア アフター (2010) 

文字数 1,040文字

【予断厳禁】 2011/2/20



僕はヘビーシネマファンの割には予断なしで作品に接していると自負している。
近年苦々しく思っているのは「泣けるシネマ」とかいう番宣方法だ。
シネマを選ぶ際には主演俳優と監督を無視するわけにはいかないが、
カタルシスを予測するのはナンセンスだと思っている。
原作シネマ化においても、どのように脚本化され映像化され編集されるか・・・
愉悦の種は尽きない。

だが、
ものには常に例外がある・・・僕のこの場合はクリント監督作品がその例外だ。
クリント監督作品には妙に気が入る、事前の心構えもしてしまう。
今回は見事に予断を持ってしまった。
クリントが「あの世(ヒアアフター)」のタイトルで監督すると聞いて
僕は素直に「いやな感じ」がした。
まさかまさか、クリントが尊敬する黒澤明監督「夢」パターンにはまってしまったか?
それもこれも彼の年齢を考慮しての予断であった・・・いやはや全く以って失礼な予断だった。

そう、クリントは間違っても自分の想いをスクリーンに投射するはずもない。
彼の監督心得第一条は「観客は賢明である」ことを肝に銘ずることだ。
観客が楽しめないシネマはそもそも製作しない、演じない、オファーを受けない。

話が回りくどくなった。
「ヒアアフター」はワナーブラザーズ+マルパスカンパニー+クリントの「定食シネマ」だ。
この定食はダイナミクスに欠けるかもしれないが
痒いところに手が届くような安定感がうれしい。
冒頭の津波シーンではさすがに度肝を抜かれたが、
あとはいつもの職人的構成で僕を取り込みひきつける。

死者、霊媒者、臨死体験など、文字で見るとおどろおどろしいが、
クリントの映像は日常的で平坦ですらある。
ばらばらのエピソードが、カタストロフィに向かって進行する。
定番のグランドホテル型もこう上手く作動すると観ていてもうれしい
(グランドブックフェア型かな?)。

そしてクリントのメッセージは僕に伝わる・・・・
自己経験以外を全て否定してはいけない。
だからといって臨死体験、霊媒を認めようというのでもない。
僕らの周りで無節操な差別や、虐遇が見過ごされていないか?と問いかけていた。

特にラストシーンの暖かさは記憶に残るだろう
・・・結局 人は一人では生きていけない。

老婆心:
もしかして、クリントは「あの世」というブラックカードを敢えて切って
集客したのかもしれない。
マスコミ、ファンの気持ちを販売ツールにしたか?
いずれにしても、クリントが健在でパーソナルシネマに
ボケ入ることはないことを確認できた。



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