Jの悲劇 (2004)

文字数 624文字

【説明されない恐怖もある】 2008/4/13



邦題「Jの悲劇」は練りに練った命名だ。
原題「愛の続き」が「Jの悲劇」に変貌させられた意味はよく理解できるし、
本シネマには映画人の知恵が詰め込まれていると察する。
原作者イアン・マキューアンが製作に名を連ねているだけのことはある。
元のテーマである「変質愛」を映像化することが不可能なことは
本人が一番承知していたことだ。
シネマ化での変貌は確信的だった。
そこでは、
ストーカーサスペンスの軸をずらすことなく、
俳優の力量に頼って、望むべく高いレベルで恐怖、混乱を演出している。
反面、
サスペンスの説明部分がばっさりと削られ、
かなりの程度不親切とも受け取れるが、
シネマにはリズムが大切、
フルスペック謎解きはは必須ではないばかりか冗長に陥る。

削ぎ落とされて残ったものはといえば、
狂気に対応する普通の市民の、まさに悲劇であった。
その演出意図に果敢にも応えたダニエル・クレイグ、
彼ばかりが目立ってしまったのも仕方のないところか。

一方、最後まで悲劇の謎解きがされないまま捨て置かれる観客には、
この恐怖は身に堪えるはずだ。
本シネマの狙いが実はその辺りにあったようだとすると、
これはこれでなかなか隅に置けないサスペンスなのか?

「愛の続き」ファンへの老婆心:
目玉だと期待する「気球シーン」にいまひとつ物足りなさを覚えるかも知れないが、
これもマキューアンの畳み掛ける描写力に映像がついていけない証なのだろう。
ブッカー賞は伊達ではない。

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