至福のとき (2002)

文字数 778文字

【「喪失の悲しみ」】 2007/10/27




「しあわせ三部作」の三作目というふれこみだったらしいがまったく知らなかった。
三作の基盤に流れているのは人間への信頼と、素直なまでの賛歌だった。
ただし、今作はいくぶん屈折した想いがこめられていた。
近代化最前線の大連に生きる底辺の人たち、
彼らの馬鹿馬鹿しいほどの心温かさの裏側に見えるのは「喪失の悲しみ」。

老後が不安だから結婚したい、もう相手は誰でもいい・・・たとえ嫌いなタイプでもと切羽詰る男。この男、どうせばれてしまうのに、身分を偽る・・・金持ちだって。
相手の弱みに付け込んで邪魔な盲目の娘を男に押し付ける女。
この盲目の娘を男と失業した友人たちが守ろうとする悲喜劇、
落語のような展開に、ふと襲われるのが「喪失感」。

開放経済政策で得たもの、その代わりになくしたもの。
イーモウ監督は先の二作でも、喪失のバランスを描いていたが今作はその振幅が大きい。
ストーリーのなか、頻繁に出てくる「お金」、「ハウマッチ」、いくらないとだめ、
一日いくら稼げる、いくらで買う、いくら貸して欲しい・・・・・。
コメディメソッドで見せられても、ドン・ジェの可憐な笑顔に魅せられても気分は鬱に沈みがちだった。
いつから、「中国人はお金優先」になったんだろう?

いや、僕らだって、「格差社会」とわが庭を他人事のように自己分析しているが、
一皮剥けば「金が人に優先する」ことに不思議すら感じなくなってはいないだろうか?
ただの紙をお金だとして神聖視する僕ら、本当のただの紙で心を通じ合わせてた至福のときの人物たち。
アイロニーが過ぎるとも、おとぎ話にすぎないとも思えず、
経済至上主義をきちんと批判する折り目正しさに敬服した。

おりしも、先日の中国の5カ年計画にこの方針が打ち出されている。
相変わらずの国策シネマとはいいながら、その質の高さを楽しまないほうはない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み