歩いても 歩いても (2007)

文字数 1,260文字

【怖い話だね】 2009/2/9



手の込んだ、たちの悪い、しかし上品なプチホラーシネマだったな。
家族の問題などは、それこそ腐るほどこの世の中にはあふれかえっているさ。
それでも身内だから何とかうまくやっていきたい、やっていけるはずだ
・・・との想いは結局幻想だったんだね。

舞台となる横山ファミリー、
頑固な父さんと料理上手で面倒見のいい母さん、
二世帯住居を勝手に計画する嫁いだ長女、
子持ち女性と結婚した失業中の次男、
・・・・なにやら典型的なホームドラマの様相もなきにしもあらず。

時は夏休み、離れている子達が親元に集う一日。
久しぶりのご対面に言葉が飛び交いかぶさりあい、
一層リアル感を際立たせる会話が延々と続く。
あっ、こんな会話、やりとりってあったよな、
辛辣だけど身内だからきついんだよね。
そうそう、こういう時って連れ合いの立場も微妙なんだな、
気遣ってくれる割に結構、堪えることを平気で年寄りはくちばしったりするからね。

一見どこにでもある平和で平凡な家族に思えたんだな、最初は。

でも、みんな嘘をついていたっけ。
みんな自分のことしか言い張っていないんだよね。
父さんは医者のプライド、近所への体裁ばかりを気にしてたし、
長女は親の家を何とか自分の思い通りにしたいし、
長女の旦那はといえば、君子危うきに近寄らずの軽薄のみだし、
次男はいい年して父親を超えられないまま反抗してばかりだし、
子持ちの次男の女房はコンプレックスを隠しおおせない弱さをさらけ出すし、
連れ子の少年などは死んだ父親にいまだ心酔していたね、悪いことじゃないんだけど。

みんなが嘘をついて、曲りなりに一泊の里帰り物語が作られるんだ。
怖い話といえば怖いんだけど、現実ってこんなものなんだな。
適当に・・・といえば角が立つなら、
方便で嘘を吐き散らし、嘘にしきりと頷くのも家族だからかな。

その中でひとり母さんだけは思いをそのまんまに発言していたね。
「長男の死は無駄死にだった、いまだに諦めきれない」
「誰かのせいにしないと悔しい」
「連れ子がいるから子供はつくらないほうがいい」

圧巻は一瞬だけ場面が凍りついたいしだあゆみの「ブルーライト横浜」。
あのレコード鑑賞の本意は父さんへの意趣返しだったんだろうか?
母さんの言動には少し病的なところもあったけど、だから正直だったのかも。

ほかには代えがたい家族なのに、
本音で語らなければいけない大事な家族なのに、
互いに嘘ついて、あまつさえ人の話もちゃんと聞いていないんだね。

いや人間なんてそんな程度の生き物でしかないんだな。
母さんが自動車に乗せて欲しいといったとき、
都会では自動車は無用だといった次男、
母さんの墓参りに車で来てたし、子供も作ってたね。

そう、あのときの母さんとの会話なんて覚えてられないよな。
モンシロチョウが冬を越したら黄蝶になるって言ったのはお母さんだよ、りょう君。

家族にこそ大きな秘密があって、みんなそれを知っていながら知らないふり。
思ってることなんていえないよね。
この脆いバランスを保つのが家族の秘訣だとすれば、
やっぱり怖い話だね。

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