コンパートメントNo.6   (2021)

文字数 914文字

【反戦の想い伝わる】 2023/3/20


今から30年ほど昔、1990年代のお話ということになっている。
モスクワに語学留学しているフィンランド女性のムルマンスクまでの列車旅行を描いたシネマ。
このフィンランド女性が終始見るからに洗練されていない形で描かれる一方、ロシア人恋人(女性)とそのパーティ仲間たちとの教養の格差が意地悪く強調される、ロシアは常にフィンランドが追い求める理想であるかのように。

その恋人との列車旅行がロシア女性の勝手な都合でキャンセルされた結果、コンパートメント同室相手が見るからに粗野なロシア男性に取って代わられ、その後の二人の長~いレイルロードムーヴィーが本作テーマになっている。
ロシアらしい列車の旅だが、そこに見えてくるのは世界に共通する鉄道旅行の醍醐味だった。
ただただ列車は雪の中を進み、入れ替わる乗客のささやかなエピソードはさほど心を揺さぶるものでもない。
ちょっと油断すると、僕もこの単調な列車の旅についうとうとしてしまたことが数回あった。
カンヌ映画祭グランプリという勲章につられたわけでもなく、フィンランドシネマを経験するのが最優先だったが、見事に僕の生きるテンポとは合致することはなかった、最後まで。

といって、政治的メッセージ臭もない。
ロシアインテリ層に馴染めない主人公フィンランド女性がコンパートメントを共有する粗野なロシア人男性に心惹かれていくプロセスが可愛らしく微笑ましかった一方、怪しいフィンランド人旅行男性がロシア対フィンランド対立の図式を取り払ったところはあざといとはいえお見事。

2021年製作時点でフィンランドの対ロシア感情が後退していたであろうことは、直近のフィンランドNATO接近の図式から容易に推察 できるのではあるが、シネマは一人の人間対人間の物語に固執する。
不愛想な主人公が笑みを浮かべ、粗野だったロシア男性がきめ細かい心遣いを見せる。
主人公のマニキュアが旅行が進むにつれて少しづつ剝がれていったように、人間は虚飾を脱ぎ捨て心を解き放つものだ。

それでも、現実に戦争は起きる。
眠たくなるばかりの列車旅行シネマだったが、しっかり反戦の思いは伝わった。
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