トニー滝谷 (2004) 

文字数 698文字

【孤独が伝わってきた】 2010/2/28



村上春樹さんの「東京奇譚集」ほどではないが
ちょっぴりな奇遇があっての鑑賞だった。

この一ヶ月僕は吉田修一作品を網羅していた。
ごく最近吉田作品を知りえた、これまでの不明挽回の意味もあって
一気にキャッチアップしようとした。
その目的をほぼ終了し、さすがに食傷気味の吉田タッチから避難するように
村上春樹の短編を読み返した。

吉田原作シネマもチェックしたいと
DVD「7月24日通りのクリスマス」を探していたとき、
見つけたのが「トニー滝谷」のタイトルだった。
それがたまたまその朝通勤時に読み返したものであったこと、
シネマになっていることなど知らなかったこと、
村上作品の映像化そのものにも興味がなかったこと、
というか村上作品の映像化などは壮大な無駄だと思っていることもあって、
本来ならば決して手にとってみることはなかっただろう「トニー滝谷」だった。

結局「7月24日・・・」は見つからず
僕は「トニー滝谷」を恐る恐る観ることになった。

確かに村上原作の中では「夥しい洋服」というビジュアルが
映像化の梃子になるのかな?と思っていた。

ところがどっこい、これは絵本だった。
短編小説の頁右下に小さくイラストされたような趣の淡いシネマだ。
原作の文字がそのまま語られる、
絵本の主人公たちもシンクロしてその文字をセリフで発声する。
そこには映像化過程での創造はない、変更や削除や追加すらほとんどない。
村上ワールドにそっと寄り添う控えめな逆光が印象深い映像が、朗読にかぶさっている。
トニー滝谷の孤独が伝わってきた。

市川準監督は、唯一の追加シーンで彼の孤独をダメ押しする。
そう、人間は孤独なものだ。

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