生きる LIVING (2022)

文字数 934文字

【脚本復刻大賞をイシグロさんに】 2023/3/31


黒澤明「生きる」のリメイクにはおいそれと手を出せないんだろうな邦画では。
リメイクされた黒沢作品もあるが(椿三十郎、隠し砦の三悪人)良く出来たコピーまたは似て非なるものだったことからも、いかに黒沢の再現が容易でないかが想像できる。
一方で、海外では黒沢フィルムをベースにした名作が多く製作されてきた、「七人の侍(1954)」は「荒野の七人(1960)」に、「用心棒(1961)」は「荒野の用心棒(1964)」に舞台を変えてのリメイクといえるだろう。

ここまで見てくると、どうやら黒沢アクションフィルムが世界に認められ模されたように思えるが、本作のオリジナルシネマも世界で当時高い評価を得ている。
当時とは1952年のことだから僕は2歳、両親と一緒に観たかもしれないが記憶はない、当たり前だろけど。 長じてからオリジナルシネマは観ている、それもずいぶん昔のことなので記憶にあるのは有名な「ゴンドラの唄」のくだりだ。

今般、英国版「生きる」を拝見するにあたって一番の興味はこの「ゴンドラの唄」が何に変わるかだった。 いや間違えた、それは二番目であり一番はカズオイシグロさんの脚本だった。
興味一番めの脚本は、控えめに言っても原作と同レベル、ということは極上質の展開であって、かつオリジナルに感じた古臭さは消えていた。日本生まれのノーベル賞作家のイシグロさんの持ち味、脚本家としての実績の数々が今作に集約されていた。
控えめでない言い方をすれば、脚本復刻大賞(もしあるとすれば)を差し上げたいと思った。

興味二番目の劇中歌はスコットランド民謡(ナナカマドの唄)になっていた、むろん僕は初めて聴く歌だったが、主人公がブランコに乗って歌う姿もさることながら、演じたビル・ナイ(または吹替)の唄声が感動的に美しかった。

オリジナルもリメイクも戦後復興半ばの日本、英国が舞台、その背景には不親切としか思えないお役所仕事がモチーフとなっているが、21世紀においてもこのような物語が感動を呼ぶとしたら、素直に主人公の死を賭した行動に祈りをささげることもできない。
望むべくは、心のこもった迅速な行政サービス、難しいのはわかっているが。
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