手紙 (2006)

文字数 844文字

【脚本に納得】 2007/5/7



シネマだから表現できることを思いがけず2ヶ所見つけて、うれしくなった。
《その1》
主人公「ナオ」が兄のせいで転々と職を変わらなければいけないのがストーリー展開の基流になっていて、観る者を十二分に悲しく、悔しく、苛立たせる。
「なんと世の中は理不尽なことよ!  それは差別じゃないか!」
のメッセージが語りかけてくる。
そのタイミングで勤務する会社の会長、苦労人らしい人柄がにじみ出ている
(杉浦直樹好演)が、この差別は「当然なのだ」と説得するシーンがある。
会長は、あわせてこの境遇から一歩一歩這い上がることの重要性も主人公に伝えるのだけど、
このエピソードは本シネマの大きなターニングポイントになっている。
一見、不幸な主人公を突き放すような内容の説教を、杉浦の老練な表情と物腰と台詞があればこそ、
僕は反発することもなく納得してしまった。活字からは全く感応しなかったのとは大きな違いだった。
《その2》
主人公に絡む二人の女性。世間知らずのお嬢様と苦労人のしっかり者の組み合わせは、定番とはいえ、興味深い、いや重要な設定だ。
これも活字では女性の内面にまで到達できない歯がゆさがずっと気になって仕方なかった。
活字のパートナー像はシネマと全く同じ人格に違いないのに「いやみな女」にしか思えないところがあったが、
映像にするといやみな女が「頼もしい女」になっていて納得。
沢尻エリカのおっかない表情ひとつで、彼女が四面楚歌の主人公最適のパートナーであることが理解できるのは、やはりシネマならではだ。
ただし、エリカの美形は隠しきれない・・・・ギリギリの現実感だった。
個人的には美しいほうがいいけどね。

東野圭吾原作は脚本の余地が多いところが魅力だろう。
ラストシーンでまたまた納得したのは、主人公が漫才師を目指したこと。
なるほど、これなら兄貴に直接話せるわけだ、
ネタのひとつとして話しかけるアイデアに参りました。
笑いと涙がこれまた良く似合うこともすっかり忘れていた。
極めて優秀な脚本でした。

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