アダマン号に乗って (2022)

文字数 703文字

【理想郷はいつまで?】 2023/6/20


映像ドキュメンタリーとして望みうる、そして異色の出来栄えだった。
胸の奥に秘めた熱い想い、一瞬ではあるが剥がれ落ちる仮面、
なりふり構うことない怒りと恐れ・・・すべてはドキュメンタリーの真髄だ。

本ドキュメンタリーシネマの対象は心の病に苦しむ人たち。
パリ、セーヌ川に係留されるアダマン号に毎日集まる老若男女、 その目的は療養介護デイサービス。 アダマン号でのデイサービスは、被介護者自らによる週間スケジュールの討議から始まり、各種セッション担当の説明が続く。
ミュージック、ダンス、料理、シネマ鑑賞、売店の出納管理・・などのセッションは患者自らがその運用を担う。

ドキュメンタリーカメラは彼らを優しく、しかし見逃すことなくしっかりと追い続ける。
1シーン、1カットの長さはその状況により変わる。
ただじっと参加者の無表情をとらえ続けるだけの時もあるし、マグマのような憤りをしっかりと受け止め見つみ続ける時もある。

彼らに最も必要なものは何か?
参加者から本音が漏れ聞こえてくる、そんな気になった。
心の病はとてつもなく強烈なので薬がないと対処できないが、有難いその薬は自分を無きものにもする。
周りの健常者に決して理解してもらえない苦痛と恐怖がある。
彼らの口端に上る切実な想いの根底にあったのは、人としての基本的尊厳だった。

日本の介護システムの全貌を知る立場ではないが、フランスにおける人権の歴史を感じた。
しかし、こんな理想郷アダマン号がいつまで認められ存続するのか?
シネマでは、その疑問を僕に問いかける。
いま時代が変わりつつある、素朴な不安に包まれた。
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