人間の証明 (1977)

文字数 743文字

【最低で最高】 1977/12/6


これほどに衝撃を受けたシネマも珍しい、その衝撃が時間の経過とともに腹立ちに変わってきた。
それは純粋にシネマを愛するファンに対する裏切りであり悪意ある挑戦だった。
一時はシネマの救世主として僕に希望を抱かせてくれた角川春樹氏が、単なる・・・というよりはとてつもなく優秀な起業家でしかなかった証明になった。

「ジョーズ(1975)」以来、シネマビジネスが素朴なエンターテイメント製作から企業マーケティングの商品に変換し、同時に広範な宣伝活動に依存するようになってきている現状に、僕は疑問を感じていた。
商品が消費者にとって価値がある限り、企業活動は正当であるのは言うまでもないが、本シネマはその原則を外していた。
製作の基本指針がまだ決まっていないままに撮影が始まり、修正されることなくそのままスクリーンに映し出されたといってもいいくらいだった。

一歩譲って、本作の秘められたテーマに我が感性が不覚を取ったとしても、前もって原作まで読んだにもかかわらずストーリー展開についていけないという完成度の低さは明らかだった。
いや、絶対に一歩も譲るわけにはいかない。
無理やりに理解しようとすれば、本作は母性と女性自立の相克が大きなテーマかもしれない。もしそうであるなら、少なくとも母のまた女の生き方に共鳴できる要素も説明も不足していた。

こんなお粗末なシナリオで佐藤純弥たる方が監督したことが信じられない。
思い及ぶのはプロデューサーである企業家への権力集中であり、それに抗うことができない日本映画人の衰退だった。
悔しいことには最低のシネマで最大の利益を上げることになった角川氏の敏腕が高く評価されることだった。

しかしシネマファンはこのことを決して忘れはしない、二度と騙されない。
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