許されざる者 (2013)

文字数 915文字

【すべてが美しいシネマになっていた】 2013/9/15



美しいシネマだ。
北海道の自然が切り取られた、夥しいと表現してもおかしくない美しいカットの数々。
僕は北の風景に目を瞠りストーリーを忘れてしまいそうだった。

もっとも、ストーリーに不安はなかった。
クリント教の忠実なる一員を自負する僕に、
クリントが了承した本リメイクシネマに何の懸念もなかった。
マニー役を渡辺謙さんが演じることにも全く心配していなかった。

時代劇という重いハンデーだけが気になっていた。
オリジナル作ですら西部劇というだけで苦戦したような記憶がある。
クリントも「最後の西部劇」と銘打って退路を断って生まれたのがオリジナル名作だった。

それも杞憂だったようだ。
時代劇としてギリギリの明治初期を舞台としながら、
現代につながる「アイヌ迫害」の問題がクローズアップされていた。
人種問題など、オリジナルには露ほども隠し味ですら調合されていなかったことを考えると、
本リメイクは一段と洗練された娯楽作品といえよう。

賞金稼ぎの青年はアイヌと和人の混血でアイデンティティの苦しみを抱えている、
主人公もアイヌの女性を奪い取ったことが物語の中で明らかになる、
アイヌの長老(妻の身内なのか?)とアイヌ語で語る主人公、
アイヌ虐待の場面を見て見ぬ振りができない主人公、などなどかなり先住民への配慮が強い。
別の意味で、骨太で「美しいシネマ」になっていた。

銃撃シーン、、殺人シーン、最後の鬼の殺戮シーンともに十分見ごたえのある出来だった。
殺し屋、娼婦、警官の役柄は俳優たちにとって演じやすい「おいしい役」と、
よくいわれている。
それを認めるものではあるがそれにしても俳優陣のこの「輝き」は何だ!
榎本さん、柳楽さん、國村さん、オリジナルの俳優を超えていた。

ジーン・ハックマンの役を継承した佐藤浩市さん。
ハックマンの心の内なる演技を彼がどう解釈するのか興味津々、ちょっぴり不安だった。
御免なさい、佐藤さんも輝いていた。
そこには過去の遺物である「サムライ」への侮蔑と郷愁が感じられた。
中折れ帽、乗馬ブーツに日本刀というプチ権力者像が、
奔放な演技とともに上手にカリカチュアされていた。

さて、ベネチアの評価はいかに?

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