真夜中のサバナ (1997)

文字数 663文字

【妖しい町】 2013/7/17



クリントの記念すべき監督20作目、製作にも力がこもっている。
同名の原作は実話に基づきながらもファンタジーのようなおかしな小説だ。
ここでクリントは、実際の殺人事件を再現するのに、なんとその町、屋敷でロケするだけにとどまらず、あろうことか実在する関係者をキャストに組み込んでしまう。
これはクリントが挑戦した実験的作法による、面白いシネマだ。

メインキャストのケビン・スペイシー、ジョン・キューザックの演技は極上。
アリソン・イーストウッドが妖艶で、スクリーンの向こうから匂い立つが如き印象だった。
彼ら演技人のおかげでりサバナ住民と余所者との対比が、映像化と相俟ってより鮮明より興味深くなった。見事である。

後半が法廷ものになってしまい、せっかっくの妖しげな雰囲気のサバナが希薄になってしまう懸念もあるが、この構成は正解だったと思う。
最初、サバナの町と住人を生き生きとした感性で映像化し、打って変わって後半は緊迫した裁判の駆け引きにフォーカスすることにより、クリントは多彩なるシネマ創りを1本のシネマに凝縮した。これを破綻と受け止めず、精神の柔軟性と受け止めたい。

さて、シネマの結末を、主人公が裁判には勝利しても神を欺くことは出来なかったと理解するのか、人生とはかように皮肉で不条理な悲劇と考えるのか?
またしてもクリントは、更なる宿題をのこしてくれた。
そしてこれは近年の《ミスティックリバー》、《ミリオンダラーベイビー》に持ち越されていくことになる。
さすが、常に大きな目標にチャレンジするクリントならでは。
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