夢売るふたり (2012)

文字数 749文字

【NOTHING but 松たか子】 2012/9/17



不思議なシネマだった。
そこには、手に入れたい【夢】のようなものなど欠片もなかった。
厳しくいえば、【夢】に変わるようなカタルシスすら、なにも無かった。
NOTHING.

ただただ僕の脳味噌の奥深くに、いいやもしかしたら、
意識下の深層心に刻印されたのは「松たか子」の恐怖だった。
人の良い、しかし職人気質の気難しい連れ合い(阿部サダヲ)を愛し、信じて、
彼の人生に乗っかって生きてきた女(松たか子)。
ふたりの人生設計を狂わせる火災トラブルで一からやり直しになったとき、
神は残酷な道筋を示す。
再起の苦しみの中での、あろうことか男の浮気、
怒りや動顛より復讐の悪魔に取り付かれる女。

男をけしかけ「結婚詐欺」を強いる・・・・
「やり直すには先ずお金がいるでしょう」「後から倍にして返せばいいでしょ」
女は「愛」を持って男を管理し金を詐取する、
その底には優しさに満ち溢れた男を利用する名目での「愛ゆえの意趣返し」が覗いていた。

物語はかように愛に狂った女が夢を求める女たちをだまし、
その道具としての男が磨耗していく様子が延々と語られていく。
おかしなことに、だます女もだまされる女たちも力強い、
へこたれない、ずいぶん大人な女たちだった。
ひとり、落とし前を付ける女(田中麗奈好演)が、この均衡を一挙に崩してしまう、
そこにはもはや夢は無い、あるのは悲劇。

確かに悪事は成就しないという結末は教訓的かもしれない。
確かに俳優たちは監督のメガネにかなって一人ひとり持ち味を出しきっていたかもしれない。
で、それでどうしたというのか。
NOTHING.

人間の生き様には「夢」などない、
そんなものは詐欺師の戯言だというのだろうか。
そうかもしれない、人生はNOTHING .
厳しいシネマだった。

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