ノルウェイの森 (2010)

文字数 933文字

【シンプルは上品】 2010/12/30



再来 村上春樹ブームの真っ只中で、
モンスターベストセラーの映像化だ、気にならない訳もなし。
素直な見解で、僕は村上作品は好きだ。
村上氏は同じ団塊世代、同窓の1学年先輩
そしてトライアスリートとして同じレースに出場したことも・・。
当然特別な思い入れもあるが彼の作品に見える外連味なしの正義はいつもまぶしい。
特にファンタジーを装った痛いほどの文明批判は僕の心奥に共感の熾火を煽りだす。
「べきこと」に背向け、日々の安寧を求め続けてきた我が身が痛みに目覚めるように。

ところがそんな作品の中で、
僕が理解しづらかったのがこの「ノルウェイの森」だった。
下品な表現で恐縮だが読後最初に思い浮かんだのが《女性向けエロ本》
・・・村上さんごめん。
主人公の「貧乏学生生活」が僕のそれと同期している面白さと、
逆に「女性からのもて具合」の悔しさが印象的だった。

そしてこのシネマ。
原作のエッセンスを蒸留し続けるとこのようになるのかと感銘した。
シンプルは最高といわれるが、ここではシンプルは上品だった。
エロ云々は僕の劣情の創造物だった。
主人公は「神」、
1970年の節度なき学生闘争の中に現れた「やさしい神様」だった・・・かもね。
過激すぎる学生運動にも、勉学にも身を挺することのできなかった
僕のようなノンポリグータラ学生にとっての「神」だった。
傷ついた女性たちをその存在だけで癒すことができるのは「神」のみ。
すべての女性を救えないところも僕にはわかりやすい神だった。

なんともはや 映像が新鮮だった。
スクリーンいっぱいの顔のアップが多用される。
対照的に森、林、雪景色の中の小さな人間の息遣いが愛おしい。
街並み、下宿部屋、学生たちのファッション みな懐かしかった。
セクシャルシーンは予想を見事に裏切られ、
そこには哀しさが横溢していた。

20歳の未熟な男女がそこにうごめいていた。
青春ど真ん中、
この神は当たり前のように恋に悩み、愛の喪失に慟哭する。
懐かしさと後悔が重なって僕の思い出を蹂躙していった、
そして悟る
「もう神にはなれない」。

シネマになった村上作品でその真髄を知るのもおかしなものだが、
本シネマは間違いなく小説から育ち自らを洗練させてしまった。
良し悪しは別として。

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