感染列島 (2008)

文字数 955文字

【シネマ未満感染症】 2009/8/9



「痛々しい物まね」と突き放すか、
はたまた
「果敢なる挑戦」と理解するか?
・・・なんて冗談も空しいほど。

シネマ未満、プロトタイプを観てしまったような印象だ。
料理に例えれば、味付けもなく、素材を吟味せず、手順も考慮せず、
昔どっかで味わった料理を思い出しながら、創作してみました・・・というところか。
なかでも、「どんな場面に出す料理?」「その風味?」がないままだったのが致命的。

感染者数、死亡者数から想像すると「新型ウィルス症」を想定しているらしいが、
いちばん肝心な「敵」の姿がまるで見えてこない。
今秋パンデミックが想定される「H1N1」がベースなのだろうが、
なぜ日本にこのウィルスが集中したのか?
「日本沈没」が問いかけた日本人論など欠片も窺えないまま、感染列島に陥る。
安易という以上に無責任だろう。

一歩譲って、
シネマ的前提省略と言う考えもある、「ある日突然日本だけに業病が流行る」。
このあとのスト-リーの流れとすれば、
「誰」が「どう」この災難に対処するか、が見所になる。
主人公の医者(妻夫木)はじめ大勢の専門家がいかにして救世主になるかはシネマとしてお楽しみどころだ。
ところが、この線も空頼りになる。
現実に高度医療が充実しているというのに、医療関係者は為すすべなく、右往左往するのみ。
怪しい研究者が暗躍するに至っては、収拾のつかないサイドストーリーに寄り道する。
ウイルスに歯が立たなくて人類の負けであるなら、それも美しい。
「復活の日」の復活は果たせなかったようだ。

お約束の愛情物語も、細切れ配置で類型から脱し切れなかった。
主人公の恋人(壇れい)が感染死するのもパ-タンなら、その死が劇的な解決に繋がるアイデアもあまりにお馴染み。
看護師と娘、養鶏場経営者父娘などなど多すぎるエピソードも、安手のお涙ちょうだいで胡散臭い。
「渚にて」の静かで切ない、それでいて乾ききった愛情など望むべくもないのだろうけど。

役者陣も防護服、ゴーグル、マスク、手袋をつけてのパフォーマンス、
まさに演技力が問われるシチュエイションだったが、
妻夫木さんのみが輝いていたのはむべなるかな。

「H1N1」世界パンデミックに先駆けたシネマなのに、
テーマ欠如によりシネマ自体が感染症になったしまった、
洒落にもならない。
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