椿山課長の七日間 (2006)

文字数 808文字

【無言の悲鳴 「あの時言っておけば・・」】 2007/6/13



大作「地下鉄に乗って」を追っかけるように公開されたこちらの浅田シネマは、まずもって元手のかけ方が上品でよろしい。内容もそうだし、失礼ながらキャスティングからもエコ、省エネの趣があって品がよろしい。

ただし、それは実際に本編が始まるまでは気づかない・・・というか、西田敏行さん主演と思っていたらそれが名義貸し?のようなものだったと気づく時点で、そのことにようやく納得できるのではあるが。
これをして、嫌味とかクレームと短絡的に感じ取ってもらっても困る。
西田さんが、姿を現さなくても僕は伊藤美咲さんのなかに(後ろに?)西やんを感じていたわけだから。
いってみればダブルキャストのようなもの。
どちらがメインともいえないが、物理的な時間で判断すれば裏キャスト(たとえば美咲さん)が圧倒的優位になっている。

浅田ワールドは相変わらず快調(原作未読だけれど)、十八番の親子テーマにつき、僕なんかハナから泣かされる覚悟・・というよりは泣かされないぞの抵抗は放棄していた。
その点、お約束どおりの職人技で、涙との対面をさせてもらった。

さて、落ち着いて振り返ってみれば、泣き笑いしながら単に「霊魂乗り移りの奇異さ興味」で二時間付き合ってしまった・・・の悔いが大きく残っている。
死後、あの世への旅立ちをテーマとした名作は数多いが、本作の狙いは少し外れ気味だったようだ。

いまさらながら、心配になったのは;
人は自分の死後、自分の存在しない世界が実は何の変化もない日常世界の継続だとの現実を、本シチュエイションファンタジーは逆説として証明しようとしていた・・・のではないかということ。
幽霊はファンタジーのなかだけ。
「あの時いっておけば・・」は無言の悲鳴、ロマンチックとは程遠い。
だからこそ、人は与えられた人生を精一杯生きることが大切だ。

ビジュアルにした時のリスクが大きいファンタジーもある。
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