北壁に舞う (1979)

文字数 757文字

【がんばってくれて ごくろうさま】 1979/6/22



ドキュメントシネマが少なくなっている。
通常の劇映画が落ち込んでいる現状からすれば当然のことなのかもしれない。
記憶では、以前はドキュメント作品は多かったし、面白かった。
さて、本シネマは、
冬のグランドジョラス、
マッターホルン
そしてアイガー北壁、単独登攀の三冠王となった長谷川恒夫氏の記録である。

「山に登るのは、そこに山があるからだ」といった名登山家がいたが、
その言葉通り、山登りは自己と自然との戦い、孤独で地味な戦いのようだ。
山登りの経験はなく、山への興味さえない僕のような人間にとって、
その行為はブラックボックス、登頂の成否だけが関心事である。

観終わった後も、悔しいかなその点は少しも啓発されなかったようだが、
長谷川氏の登山に対する心情がわかったことは大きな収穫であった。
単独登攀とは一往復することなのだ・・・などその難しさを具体的に理解できた。

ところで、ドキュメントの面白さは、
製作する側が対象をどのように浮き上がらせるかと、
いろいろ知恵を絞るところにある。
本シネマでは、撮影クルーをも素材とし、
また長谷川夫妻の交流にまで幅を広げている。
「あなた、がんばってくれて、ごくろうさま」
夫人の言葉はなんとも状況にそぐわないようで、不自然にも思えるが、
背景に雲をついてそびえる吹雪のグランドジョナスが見えると、
邪推も吹き飛んでしまう。

ヘリコプターによる近接撮影も大きな武器だった。
長谷川氏の余裕ある顔つきの中に垣間見える、真剣な眼差し、厳しい態度。
本音を見た想いだ。
トラブル、苦難の末の逆転成功という感動のシナリオにはならなかったことこそ、
長谷川氏のプロの証明であったと信じている。

美しい冬のアルプス、自然に挑む日本人、支援するスタッフ。
やはり、ドキュメントは面白い。

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