ある男 (2021)

文字数 430文字

【名作が名シネマに】 2022/11/18


同名の原作はメッセージ性の高い、どちらかというとノンフィクションを装った名作であった。
映像になったことで文字通り記号でしかなかった登場人物に血肉が通った、ポっと色彩が繕われたように。

シネマ冒頭での後ろ姿の男がエンディングにつながる映像処理は、ミイラ取りがミイラになるアイロニカルな本作テーマを象徴していた。
平野文学のエッセンスであり、原作でも厳しくも切なく訴えられていた「差別」への批判は、しっかりと本作でも回収される。
嫌韓トレンド、戸籍ロンダリング、死刑問題の本質、夫婦の亀裂、家族崩壊、愛情と尊敬の危うさ。
一人の男のアイデンティティに深く立ち入ることで、調査する弁護士も、依頼者も、調査に関係する人たちがその真情を漏らし 最後には途方に暮れる。

ミステリー仕立ての謎解きの興味もあるが、それ以上に人間の心の奥の暗さ、それに抗う可愛らしさに気づかされる。
堂々の大人の恋愛物語、名小説が名シネマになっていた。
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