グッバイ・クルエル・ワールド (2022)

文字数 822文字

【もう疲れたよ】 2022/9/14


「もうつかれたよ」 の言葉に僕は思わず吹き出してしまった。
そして、その笑の息はすぐに空中で凍り付いた。

このセリフは強奪グループの一員(西島さん)が悪徳デカ(大森さん)に向けたもの、さんざん数多の人を殺戮しておいての一言だった。
荒筋はシンプル、ヤクザのマネーロンダリングアジトを襲撃したグループが当然ながらヤクザに追われて消されるというもの、 このレベルは予告編で予備知識として入っていた、まぁ ありきたりなテーマだな・・・想定できる道筋を予習する余裕すらあった。

ところが、物語は思いがけない方向に突っ走る、暴走だった。
本作には堅気の人間は一人も登場しない、いわゆるノワール・シネマ系統だが、ノワールといえども仁義やこだわりが幅を利かしてきたものだ。

そんなものはどこにも見えない、みんな悲壮に何かを求めて暴走する。金のため、といえばそうだがその背景に鬱積した生活の匂いが芬々と漂う。
元ヤクザは生きる権利はないのか?
個人は組織に呑みこまれる宿命なのか?
貧困は罪なのか?

俳優にとって悪を演じることは何より甲斐のあるものと言われている通り、
全共闘崩れのずる賢さ(三浦さん)、止めようのない残忍さ(斎藤さん)、我慢忍耐の元ヤクザ(西島さん)、深みから抜け出せない刑事(大森さん)、優しさと狂気が同居する少年(宮沢さん)、人生に見切りをつけた少女(玉城さん)、皆さん楽しそうだった。

そんな彼らが何のためらいもなく、人を殺してまわる。
その挙句が 先の言葉「もう疲れたよ」、
いや見ているこっちの方が疲れたよ・・・と思わず吹き出してしまう、おかしなカタルシスだった。

笑いながら、彼らの姿が僕を含めた周りにいる人たちと重なってきた。
不満を抑え、文句も言えず、悲惨な(クルエル)一日を生き延びる者たちにこそふさわしいエンディングだった
・・・もうつかれたよ。
まんまと大森監督の術中に嵌まった幸せを感じた。
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