幸福の黄色いハンカチ (1977)

文字数 534文字

【山田・高倉 再生シネマ】 1977/11/20



計算しつくされた巧みな演出でスクリーンにすっぽりと呑み込まれ共感に塗れるシネマに、高邁なテーマ美しい映像などは到底敵うものではないことを痛感した。
劇場で大っぴらに涙を流してしまったのも、初体験だった。

そのすべては高倉健の魅力がもたらすものだった。
強面のヤクザスターのイメージチェインジはそうそう簡単ではない、より強力なスーパーマンであるか、コミカル三枚目路線がありそうだが、
山田監督が再生したのは「寅さん」では創りえなかった名もない中年男の真摯な生き方だった。
そこでは人生に躓いた男の寂しさと優しさが、高倉健を得てストレートに伝わってきた。
出所後、ビールを飲みラーメンを食べシーツに触れる無邪気、ラストの黄色いハンカチを見上げるロングショットに立つ幸福感、
だれもが考えつかなかった新しい高倉健の魅力だった。
山田組の倍賞さんとのせめぎ合いももう一つの観どころだった、助演に徹した彼女が健さんの魅力を一層引き出す。

もはや山田監督をノンアート派の巨匠などと言えない、
高倉健をヤクザスターと言えないのと同じように。
キネマ旬報、作品第一位、そして主演男優賞は高倉健(八甲田山ではなく)で決まりだろう。
(記:1977年11月20日)
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