さよなら。いつかわかること (2007)

文字数 698文字

【忠実なるアメリカ人の悲劇】 2008/11/17



ほんとに上手に創られたシネマだった。
メッセージは「リーダー不信」。
20007年、とても微妙なタイミングでに製作されている。

主人公(ジョン・キューザック)には反体制・反戦の意識は夢にも出てきそうもない。
この二人の娘を持つ父親は志願して兵士の義務を果たそうとする愛国者。
妻(娘の母親)との出逢いが軍隊で・・・というぐらいだから、彼女も夫以上の愛国者。
事情が奇異なのは、戦争に出征したのが母親の方だという点だけ。

銃後を守る夫としての負い目、ひるがえって妻への敬愛が隠しおおせない。
だからといって、母親の代理として娘たちを守る自信も完全ではない。

シネマは妻、そして母親の死を娘に知らせることがどうしてもできない父親の数日を描く。
この男の愛国魂は、娘への哀しみや妻への惜別に比べれば取るに足らなく脆弱なものだった。
世界の秩序を守る、悪を打ち負かすことがアメリカ人の使命だと信じる人の不幸。
信じることと実行することの間に横たわる大きな闇と谷。
おそらく保守アメリカ中間層の現実の姿なんだろう。

男が信じたのは、闘うこと、戦争をすることは国に貢献するということ。
そして迎える、小さなしかし取り返しのつかない喪失、悲しみ。

地球上で何度も繰り返されてきて、これからも絶えることもないだろう悲しみ。
決して珍しい風景ではないが、男性の、夫の、父親の視点が新鮮だった。
キューザックの意図した忠実なるアメリカ人の悲劇、しっかりと伝わってきた。

老婆心:
ここではイラク、アフガニスタン市民側の悲劇は敢えて棚に上げよう。
アメリカが変わらなければ何も変わらないという悲しい図式がある。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み