真夜中の刑事/PYTHON357 (1976)

文字数 1,093文字

【ヌーベル フィルムノワール】 1979/5/16



イブ・モンタンはうまい役者。
すくなくとも、このようなうらぶれた中年男を演じられるだけのことはある。
同じことが共演している奥方のシモーレ・シニョレにも言えるのであるが、
今回はイブ・モンタン。

最近のモンタンは、極左的政治メッセージを孕んだ題材に関わるかと思えば、
男女の細やかな描写が特徴のラブシネマでも独特の存在感を示している。
どちらも僕には理想の男性像としてまぶしくて、うらやましい俳優だ。
ところが、どっこい。 
それに留まるモンタンではなかったようである。
本シネマの彼の役どころ、一見どこから見ても風采の上がらない中年男。
よくあるのが、こんな人間が肝心な場面で大活躍するというパターンだが、
主人公フェローの場合、決して変身するわけではない、生粋の中年男だ。

せっかくモンタンを使うのであれば、女性との愛の葛藤がシネマの(たとえ刑事ものであれ)
横糸ぐらいになる方が自然なように思われる。
確かに女性がストーリーのキーにはなっているが、ロマンスまでにはならない。
ステファニ・サンドレッリ(ちょっと、ふっくらしてきたがいまも魅力的)を
相手役シルビアにキャスティングしたのもその点が考慮されてのことだろう。
しょぼくれた中年男と恋をするには彼女は、少し清純さを失いすぎたし、
基本的に生命力が強い印象がある。
というわけで、フェローがシルビアと一時の恋、錯覚に陥るのも自然だし、
その恋が自分が愛する生活(刑事生活)を脅かすとして深入りしないのも、
これまた自然で抵抗がなかった。
そこにあるのはストイックな男の人生なのだから。

ハムエッグを焼き、コーヒーを沸かすシーンに、
カットインされる愛銃パイソン357の銃弾を手造りするフェロー。
常に整理されている最小限の家具と工作道具が同居するフェローの部屋。

いつも同じグレーの上着しか着ないフェロー。
滑稽にさえ見える曲撃ちまがいの射撃訓練に熱中するフェロー。
条件反射でパイソンを抜き撃ちするフェロー。
自分の顔を焼いてまで、本能のまま自分を守ろうとするフェロー。
誰の助けも借りず、長い人生を生き抜いてきたフェロー。
同じ男性としてとても悲しい想いがする。
ラストに用意されたガンアクションも、訓練された刑事の姿のみ、
決してアクションの華をみせない。

体力の衰えを、ものともしない古参軍曹の逞しささえ感じるに至っては、余計に悲しい。
イブ・モンタン、男の美しさに自身隠しようのない老いの疲弊が融けあっている。
ほとんど忘れかけていたフィルムノワールの匂いを胸いっぱい吸い込める名品。
アラン・コルノー監督、噂にたがわぬ鋭い切れ味だった。

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