ザ・ロード (2009)

文字数 931文字

【灰色インパクト】 2010/6/29



こんなシネマを誰が観たいと思うのか?

滅び行く地球は灰色の世界、
木は倒れ地からは火が噴き揺るぎ止らない。
母なる地球の断末摩。
暗い空、グレーの山並、灰を踏み分けてただ歩き続ける父と息子。
「死」は日常となり殺戮はもはや眼に見慣れた光景になってしまう。
人食い集団の恐怖と耐えがたい飢餓・・・・皮肉な絶望に生きる勇気を放棄する人々。
この人類終焉に逆らい父と息子は歩み続ける。
目の前に広がる灰色の THE ROAD

僕はこんなシネマが観たいと思った。
何故だろう。
ピューリッツァー賞原作だから?
ヴィゴ・モーテンセン入神の演技に浸りたいから?
単純に「破滅SFファン」だから?

本当のところ何故本シネマが観たかったのかわからなくなった・・・様な気がする。

ひとつだけ確かなことは「絶望の完成度」を映像としてしっかりと観ておきたかった。
■灰色の大地。灰色の海
■立ち枯れた灰色の森林
■燃え上がる灰色の世界
■灰色に汚れ疲労した人間たち

そうなんだ、「灰色」の世界は本当に僕を満足させてくれるのか?
このことが気懸かりだった。

そして、あくまでも僕の個人的感想だが
この「灰色シネマ」はエンターテイメントを排除していながらも、
おそらくは僕の心にずっと残る作品になることだろう。

その灰色世界を支えていたテクニックは
「幸福な世界」へのフラッシュバックだった。
灰色の現実から色彩豊かな過去、幸せだった家庭に切り替わるときの哀しさ。
そして現実にもどるときの更なる絶望・・・更なる灰色。

この単純な対比で本シネマは父の存在を高めていた。
「幸せな夢を見るのは生きる力を失っているからだよ・・・」と
父は息子に説き聞かせる。
自分の死期が近いことを知りながら。
もはや、マッカーシーの難解饒舌は気にならない、優しさに満ち溢れていた。

もうひとつ忘れてはならないのは「息子」。
路上であった老人に施しを主張する息子、
その顔は「天使」のようだと語りかける老人(イーライ)。
スクリーンに実体化された天使は望むべく最適のキャスティングだった。

天使は残り少ない人類に「火」を運んでいく・・・「火」を灯していく。
善き人々が天使のもとに集まってくる。
破滅SFの定番とはいえ「小さな希望」が光り輝いていた。

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