マエストロ:その音楽と愛と (2023)

文字数 717文字

【クーパー 執念の演技】 2023/12/25


ブラッドリー・クーパー監督第二作目も音楽がモチーフになっていた。

監督第一作だった「アリー/スター誕生(2018)」同様に、脚本、製作も兼ねたワンマンシネマだが、前作同様奥様役のキャリー・マリガンを引き立る心遣いが伝わってくる優しさの一方、前作にはなかった主人公レナード・バーンスタインの役作りに全霊で取り組む熱情に火傷しそうだ。
後半の山場「ミサ」演奏におけるダイナミックな指揮作法は、実物を知らないぼくですらバーンスタインの音楽がひっしと届いてきた。

物語は彼の回想という形で、ニュー・ヨーク・フィル指揮デビューから最愛の妻の死までを綴っていく王道の展開はバーンスタインへの敬意が深く込められていた。
その一方で、ゲイ(というかバイ)を自認し隠し立てすることなく、逆に芸術家の特権と偽り妻を裏切り続けるマエストロ。
このあたりの事実関係はぼくには定かではないが、現代のLGBTQムーブメントを持ち出すまでもなくきわめて個人的な内面にも本作は踏み込むブラッドリー・クーパーの決意を見る想いだった。

使われる音楽はすべてバーンスタインだが、「ウェストサイド・ストーリー」くらいしか認識できない不勉強をしみじみ悟ることになった。
しかしながらスクリーンサイズは小さく、前半はモノクロ画像の中で、音楽がさほど重要な位置を占めているようにも思えない。
本作はバーンスタインと妻フェリシアの不変の愛を辿るものだとすれば、実は大画面も大音響も必要ではなかった。

「アリー/スター誕生」から打って変った地味であるが心を揺り動かされるシネマだった。
バラッドリー・クーパーの執念を賞賛するしかなかった。
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