グロリア (1980)

文字数 766文字

【新生ハードボイルド】 1981/3/14



本シネマは単に女性が主演するハードボイルド作品という珍作、奇作ではない。
ハードボイルドが信念に生きる人間を可能な限りクールに描くものだとすれば、
本シネマはそれが男の世界に限らないことを証明してくれた。

それは一級のハードボイルドシネマに女優の演じる場所があったというだけのことである。
同様にハードボイルドなキャラクターとはマーローやアーチャーのように犯罪者の対極に
位置する必要もないことがわかった。
ここは、監督ジョン・カセベテスを讃えるべきなのかもしれない。
シネマイントロのハードタッチはすさまじい。

ニューヨークのアパートの一室、日常に入り込んでくる暴力の描き方は強烈である。
もうここから観客はハードな世界に引きずり込まれてしまう。
主人公グロリアは裏の暗黒社会に戦いを挑む女性版一匹狼というハードな存在と、
その原因となったプエルトリコ少年フィルとの母性を越えた
男女関係とも思えるような関係に流されるソフトな存在の両面を持っている。
中年女性と7~8歳の少年との擬似恋愛関係は、
コミカルな装ではあるが、主流の息づまる緊迫した闘いと
効果的に調和していた。

少年を殺し屋から守るため、仲間たちと殺しあう羽目になる
グロリアという「おばさん」の誕生は、繰り返しになるが偉業であった。
やけに哀愁たっぷりの男性版ハードボイルドは、
もしかしたらもう既に消滅してしまったのだろうか。
もっとも、ラストシーンに見る甘さは、
少年がいてこその女性本能に裏打ちされた強さ、
それがグロリアの背中に張り付いていたことの証であることも
理解しておく必要がある。

それでもなお、
人生を知り尽くしたようなグロリアの眼差しは、紛れもなくハードボイルドだった。
ビル・コンティの音楽、
ウンガロのファッションが
グロリアをいっそうハードにしていた。

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