ゼア・ウィル・ビー・ブラッド (2007)

文字数 819文字

【アメリカンドリームの影】 2008/8/27



アメリカ人が自慢するのは、
「夢が実現できるチャンスの国、アメリカ」。
としても全員みんなが成功者になれるわけも無いのは自明の理。
本作ではその稀な成功者の光と影が強烈に掬い取られている、
観応えのある重作だった。

主人公ダニエルの不屈の上昇志向からは、
当初勤労プロテスタントの誇りと信念が滲みでて、
伝統的開拓者として僕は好感すら覚えた。
そのピュアなアメリカン・スピリットが一転して邪悪な翳りを見せてくる要因は「石油」。
ダニエルは石油のために、いや石油が象徴する巨万の富のために人生の航路を
大きく曲げていく。
ビジネストークを遥かに超える詐偽取引、裏取引、似非宗教への宗旨替え。
アメリカンドリームの国が規範とする「フェア・プレイ」や「自由・平等」の精神は
無残にも彼の内側から音を立てて朽ちて消えていく。

僕でも、アメリカン・ドリームを達成した石油長者は孤独だ・・・と想像できる。
大きな成功の代償として「孤独」を受容れなければいけないのだろう・・とも想像する、
想像の域でしかないが。

その時、
孤独のなかの唯一の安らぎとして「家族」が存在する。
主人公があれほどまでに「血」・・・「肉親」にこだわったのが哀れ、悲しい。
偽物の家族に裏切られるたびに,自ら悲劇を演出していく主人公は
更なる地獄に落下し続けていく。

闘うだけ、切り進むだけの人生を選んだ主人公を、僕はじっと見守るだけだった。
本来救済となる「祈り」、「後悔」を否定したダニエルが最終に至って、
偽の宗教を抹殺するのは至極当然に思えた。

この国では、スポーツ、ショービジネス以外で一攫千金を実現するには「石油」
・・・こんな強迫概念に、いまだ、とらわれ続けているのだろうか?
今なお、遠い砂漠の国に「石油」を求めているのも、
成功という見果てぬプレッシャーから逃れられないからだろうか?

ほの暗い画面、静かな会話、美しい旋律・・・・
だけれど魂を揺さぶる骨太なシネマだった。

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